第6話 夏の天体観測その1と凪の秘密

7月。

時の流れは早いもので、校庭に咲いていた桜はすっかり散って、葉が生えはじめていた。

夏休みの初めの週の金曜日、俺たち天文学部は天体観測をするため、学校に集まることになった。太陽がジリジリと照りつけるアスファルトの下り坂を自転車で一気に駆け抜ける。

「きーもちー!」

少し汗をかいている肌に直接風があたって解放感が半端じゃない。


学校の駐輪場でたまたま蜂田先輩と会った。

相変わらずちょっと怖いなぁ…


「おー!お前は…佐…佐…」

「佐倉です。」

「そーそー!佐倉だ!同じ班だろ?困ったことがあればこの!蜂田先輩になんでも聞けよー!」


いや…見た目は怖いけど、悪い人ではないらしい。

ちょっと安心。



「なぁなぁ…佐倉、蜂田…?」

「…蜂田先輩。」


全然そんなことなかった。


集合場所は理科室。

俺がきた時点でもう梓先輩と凪は来ていた。


「佐倉遅い。」

凪が怒ったように言った。

いやまだ集合時間5分前ですけど!?

「いやいやいや…全然間に合ってるよ…」


「あ!蜂田くんも来てるね〜」

俺と一緒にきた蜂田先輩に梓先輩が話しかけた。

「ウス!今日はよろしくっす!」

蜂田先輩…梓先輩にはやたらペコペコしてるんだよなぁ…


「はい!いろいろ話してる場合じゃないよ!今日は泊まり込みなんだから、教室…あ、うちの班は3年3組だから、その教室に布団敷いて、1年は望遠鏡、2、3年は部員全員分の

椅子を運ばなきゃ!」


流石部長。

やらないといけないことを淡々と述べている。


1年生は望遠鏡を運ばなければいけないらしい。

本当は布団も敷かなければいけないけど、梓先輩が任せてと言っていたので任せることにした。


望遠鏡は実験準備室にある。

中学の実験準備室は薄暗くて埃っぽかったから、あんまり好きじゃなかったなぁ…

凪といっしょに実験準備室に向かった。

幸い誰もいなくて、望遠鏡が運びやすい。


「うぉっ!まぶしっ!」

「まぶしい…」


準備室にある小さい窓から刺す

夕日の光がすごくまぶしかった。


「佐倉これ…届かないんだけど…」

凪が棚の上にあった望遠鏡を取ろうと腕を伸ばしていた。

「ふっ…」

「ねぇ絶対笑っただろ…」


すっげーちっちぇ…

本当、背伸びしても届かないとか…


その時、凪の身長より大きい鉄の棒が倒れてきているのに気づいた。


「危ないっ!」

「え?」


ガンっっ!

とニブイ音がした直後、俺の腕に激痛がはしった。

間一髪俺が凪をおおいかぶさるように守ることができた。

俺の下で座り込む凪に問いかける。

「おい、大丈夫かって…は?」


真っ黒な長い髪、床にはかつらが落ちてついた。


「お前…その姿…」

「見るなっ!」


頭を抱えて座り込んでいる凪に背中を向けた俺の脳内はパンク状態だった。


凪は女子だった?

何故?何のために?

見られたくない秘密?

でも、凪が俺の運命の相手になるのには辻褄が合う…


「ねぇ、もういいから。さっさと望遠鏡運ぶよ。さっきのことは他言無用、事情は今夜、屋上前の階段で話す。」


俺が振り向くといつもの凪に戻っていた。

今夜…ということは、天体観測が終わった後か。

「わかったよ。」


高校1年の夏休み、茜色の光が刺す準備室で俺は彼…いや、彼女の最大の秘密を知った。


「凄い音がしたんだけど大丈夫ー?」

準備室の前にはるぅがいた。

「ああ、大丈夫だよ。」

「ヒカ君!その腕は?」

「あ、?あーこれは…」

「全然大丈夫じゃないじゃん!はい保険室行くよ!黒瀬さんは大丈夫?怪我してない?」

「あ、うん…大丈夫。」

「ならよかった!その望遠鏡1人で運べる?先輩達呼ぼうか?」

「…運べるからいい。」

「そっか!じゃあよろしくね!」


俺はるぅといっしょに保健室に行くことになった。

鉄の棒が当たったのは左手で、血は出てないが、少し赤く腫れていた。

「もー本当に危なっかしいんだからー。ヒカ君のことだし、黒瀬さん庇って怪我したんでしょ。」


「うっっ…」


「ほら図星じゃん!誰かを想うこともヒカ君らしくていいけど、自分のことも大切にしなよー!」


るぅは昔から、危なっかしい俺の面倒を見てくれてた。

それは今でも変わらない。

少し胸が温かくなった。


「…わかったよ…」


「それでよし!」


夕日が差し込む廊下て2人の影だけがどこまでもどこまでものびていた。

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