第二章

プロローグ

 日ノ本中央政府。

 魔によって地上が支配された現代……空路も海路も絶たれ、国際社会から孤立することとなった日本列島における最大の都市であり、天皇陛下を頂点とする王政都市。

 神聖力という神様より与えられた力が根底となって文明を支える日ノ本中央政府の文明レベルはかなり高く、魔によって地上が支配される以前と遜色ない文明レベルと言えるだろう。


「ねぇ……あの子とキスしていたのは何?」

 

 そんな日ノ本中央政府へと戻るため、大型のサイドカーを運転する結衣が僕へと疑問の声を投げかけてくる。

 ……あの子、花蓮のことかな?


「ほんへほんほはんす」

 

 サイドカーのハンドルを握り、運転をしている結衣とは対象的にただ二輪車の横にある一輪の車台へと腰を下ろして花蓮からもらったおやつを食べていた僕はその質問に答えるべく口を開くも、口の中パンパンにお菓子がつまっていたため、答えるのに失敗する。


「……食べ終えてからで良いわ」


「……」

 

 僕は結衣の言葉に無言で頷き、口をもぐもぐ動かす。


「……」


「……」


「……」


「……よし」


 しばらくして、ようやくお菓子を全て食べ終えた僕は空っぽになった袋を自分のリュックの中へと仕舞う。


「全部、食べきるんだね……」


「……?」


 ぼそりと呟かれた結衣の言葉に僕は首を傾げる。


「いや、なんでも無いわ。そんなことより、よ!あの子とキスしていたのは何!?いつの間にそんな仲良くなったの!?」


「ずっと一緒に暮らしていたんだし、仲良くなっていなかったら逆に不思議じゃない?」

 

「いや!それもそうなんだけどね!!!……いや、でも……キスって!キスって!」

 

「……?」

 

 僕はキスごときで激しく取り乱し、慌てている結衣を見ながら首を傾げる。


「むむぅ……ッ。私もまだしたことないのに……と、というか柴旅は……ッ!」


「……あっ。見えてきたよ」

 

 ぶつぶつと何かを呟いている結衣を横目にぼーっと前を見ていた僕は声を上げる。


「んっ?あぁ……そうね」

 

 見えてきたのは数メートルなんて話ではない……100mにさえ届きそうなほどに高く、僕の見渡す限りずっと横に広がっているあまりにも巨大な壁だ。

 日ノ本中央政府を囲うその壁は魔から我々を守る単純にして最強の防壁である。


「そろそろ身分証を用意しておかないと……私のバックから私の分の身分証を出しておいて頂戴」


「はーい」

 

 僕は自分の乗っている車台に収納している結衣のリュックを取り出し、その中から結衣の身分証を取り出した。

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