第19話

 花蓮の母親の絶叫。

 その絶叫からは村の雰囲気が一転する。

 他にも子供がいる親なども結衣へと期待を寄せ、村全体の雰囲気が一気に結衣寄りへと変化する。


 元より子供たちを生贄にするって話を当然村の人間は快く思っておらず……それに加えて美人であり、ちゃんと村のためを思って寄り添ってくれる結衣を毎日のようにヒステリック気味に怒鳴りつけていた村長への評価が下がっていたこともあって雰囲気が変わるまでにそこまでの時間がかからなかった。


「待て、待つのじゃ!」

 

 それでも、村長がそんな流れに抗うように声を張り上げる……そして、長い時を生きてこの村を長年治めてきた村長の言葉が与える影響はどれだけ評価が下がっても高かった。


「どうしていきなりそんなよそ者を信じられるのじゃ!わしらはわしらのやり方でこの村を守っていくんじゃ!」


「あぁ……そうだ。今更やってきた人を信じるというのか?」


「まったくだ」

 

 そして、村長と同じ価値観を持つ人が次々と声を上げていく……それに対して結衣が反論しようとした時だった。


「死ね、クソジジイッ!!!」


「えっ」

 

 村長たちが作ろうとした流れを断ち切るように一つの怒号と鈍い拳の音が響き渡ったのは。

 

 村長の浮かび上がって地面を転がり、次の言葉を強制的に告げられなくさせる。

 そんな凶行を前にして村長の味方をして自分の意見を告げようとしていた人たちも二の句が告げられなくなってしまう。


「子供を生贄するのをわしらのやり方だなんて言って粋がるなッ!……すみません、結衣さん」

 

 村長を殴り飛ばした一人の男が結衣の前に来て頭を下げる。


「行動するのが遅れました……自分がすぐに行動出来ない意気地なしであったが故にあなたを不快にさせてしまいました。自身の不甲斐なさ、並びにうちの親父が長らくあなたに対して吐いた暴言をここに深く謝罪します」

 

「いえいえ!そんなあなたが謝ることではありませんよ!私が外様であるのはその通りですし、これまで私たちが何も出来なかったのも事実ですので」


「いえ、そんなことありません……これは、こちら側の不手際なのです。その上でお願い申し上げたい。どうか、我々を、我々を守る神様を救ってほしい……ッ!」

 

 村長の息子であり、かつて……愛する我が子を生贄としてささげたこともある男が深々と頭を下げて結衣へとお願いする。


「もちろんです。出来るだけ多くの人を救う……私はそのためにいるんですから」

 

 村長の息子である男のお願いに対して結衣は当然とばかりに頷いたのだった。

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