第18話

 花蓮が村の一部の大人たちによって洞窟の中へと運び込まれてから早いことでもう一週間。


「村長!我々にこの村の神様の魔を払う許可を!」


「もう既に花蓮は神様にその身を捧げた!遅いじゃろう!」


 それほどの時が経ってもなお、結衣と村長の問答は続いていた。


「遅くはありません!彼女の側には柴旅がいますので!」


「えぇい!あんなクソガキも殺されたに決まっておろうがァ!餓鬼が死に、儂らが助かったァ!それで終わりじゃ!」


「ありえません!柴旅はそんな脆弱ではありません!」


 村中に響き渡る押し問答。

 そんな中で、村人は特に反応を示すこともなく、静観の構えを貫いていた。


「……もう!やめてください!」


 だが、とうとう我慢の限界だったのか……花蓮の母親である女性が叫び声を上げる。


「あの子は死んだんです!これ以上……これ以上あの子のことを思い出させることは言わないでッ!」


 愛すべき娘を失って悲しまない親がどこにいるだろうか?

 村のために子を見捨てたその両親に二人の押し問答がどれだけの傷を産んだだろうか?


「それはできません。まだ、花蓮さんは生きていますから。自分の目の前のある命を見捨てることは私にはできません」

 

 だからこそ、結衣はその悲しみを広げたくはないのだ……より多くの人に。


「なんで……そんなことが……ッ!」


「私が神祇官であり、柴旅がそんな私の相棒であるからです。魔に堕ちつつある神様に私たちが負けるほど人類の希望は小さくないのです」


「……ッ!それ……ですがッ!」


「私たちならば花蓮さんを救うことが出来ます……花蓮さんだけではありません。この村にいる多くの子どもたちを救うことが出来ます。このままでは神様はより多くの生贄を求めるようになり、この村のこどもたち全てを食い尽くし、それでも止まらずいずれはこの村全てを飲み込むでしょう。そんな現状を私は変えたいのです」


「……ッ!……ッ!」


 様々な激情が内心に走り、二の句を告げずにいる花蓮の母親に代わり、その他の子供の親が声を上げる。


「本当に貴方なら解決出来るのでしょうか?俺の子供を……生贄とせずに済むのでしょうか?」


「はい。もちろんです。私たちなら助けられます」

 

 パラパラと声が上がり……集まってくる子供たちの親と村の人たち。

 そんな人達を前に結衣がそう断言する。


「……花蓮のママ。私は花蓮ともっと一緒にいたいよ?……花蓮のママは、どう?」


 花蓮と最も仲の良い友人であった璃々夢の言葉。


「私は……!私は……ッ!花蓮と一緒に……もっと生きたい……ッ!」


 それを受け、花蓮の母親は激情のままにただただ自分の願いを口にした。

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