第15話

 村長と結衣が何時まで経っても大きな声で話し合いを続けている中、僕たち三人は村長から借りた建物でぬくぬく平和に暮らしていた。

 今日もまた平和に一日を終えるはずだった夜。

 実に美しい満月が天上に登る月夜……こんな日に無粋な侵入者が月光に照らされる。


「……はぁー」

 

 建物の中へと入ってくる村長並びに村の大人たちの気配を感じ取った僕は起き上がり、神聖術を使って光源を生み出す。


「……ッ!?」 

 

 いきなり僕の生み出した光源に照らされ、驚愕に顔を引きつられる建物の中へとこそこそ入ってきてた村の大人たち。

 そして、ココ最近あまりぐっすりと深い眠りにつくことが出来ていなかった花蓮が僕の光に驚いてのそのそと起き上がる。


「おっ!おまっ!」


「静かにしたほうが良いと思いますよ?こっそり来たのでしょう?」


「……ッ」

 

 僕の言葉を受け、村の大人たちは慌てて口を閉じ、花蓮も花蓮で大人たちの存在に気づいて引き攣った声を漏らす。


「ぜ、ぜろ……」

 

 震えながら僕の名を呼ぶ花蓮の方へと僕は一切視線を送ることも、控えめに僕の服の裾を掴む花蓮の小さな手を握り返すこともなくただただ村の大人たちと落ち着いた姿で相対する。


「我々の邪魔するんじゃないぞ……?もししたらどうなるか……」


「わかっているよ。邪魔しないよ」

 

 この村に住む全員で襲いかかっても勝てない僕をどうするというのか。

 村長の脅し文句を前に素直な疑問を抱きつつも僕は素直に頷く。


「えっ……?」

 

 あっさりと村長に同意した僕へと花蓮がありえないものを見るかのような視線を向け、泣きそうな小さな声を漏らす。


「そうだ。それで良い」

 

 動かない僕の横を村の大人たちは素通りし、数人がかりで花蓮の体を捉える。

 

「や、やめっ!?」


 あまりに小さく、弱い花蓮の体で大人たちに対抗出来るわけがなく、彼女は何も出来ずに宙へと持ち上げられる。

 口も強引に布で閉ざされているせいで何も叫べなくなってしまう。

 

「乱暴に扱わないでね?」


「……ほざけ。生贄となってくれる少女を傷つけるわけがないだろう。貴様らが来なければこんな真似をしなくともよかったのだ」


 僕の言葉に対して見ているだけで何もしていない村長が言葉を吐き捨てる。


「なら良いけど」

 

 僕は花蓮を連行していく村の大人たちが建物から出ていくのを黙って見届ける。


「よし」

 

 僕はこんなやり取りの際も未だに眠りこけている璃々夢の方へと視線を送り……行動を始める。

 ……結衣。タイムリミットが出来たよ。出来るだけ急いでね?

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