第9話

 ちょっぴりと……いや、結構がっつりと染みついている結衣の汗の匂いが充満している寝袋に入って寝入っている僕の体が揺すられる。


「起きて、柴旅。朝よ」

 

 ぐっすりと寝入っていた僕の耳元に結衣の言葉が優しく囁かれる。


「……ん」

 

 太陽が燦燦と輝く朝。

 僕は結衣に体を揺すられて目を覚ました。


「……ふわぁ」

 

 僕は大きなあくびを浮かべながら、神聖術を発動させて水球を作り出してその中に自分の顔を突っ込んで顔を丸洗いにしてすっきりする。


「あー」

 

 そして、これまた神聖術で温風を出して髪を乾かせばもう完璧だ。

 たったこれだけで朝スッキリ出来る。実に便利な神聖術である。

 

「……相変わらずその神聖術反則よね。どれだけ聖力が有り余っているのよ」

 

「底なし?」

 

 神聖術を発動させるのに必要な聖力。

 聖力の量は生まれながらにして所有している量が決まっており、基本的に大量に所有している人はいない。

 なので、普通はいざというときのために神聖術を使わず、神聖術を使わないでおくのがセオリーだが、僕の聖力は何故か底なしであるため、結構贅沢に使える。


「チートだわ」


「そんなことより朝ごはんだよ。僕はお腹空いたよ」


「もちろん作ってあるから心配しなくて良いわよ。だから、そこら辺の野草とか食べ始めないでね?」


「わーい」

 

 僕は結衣の言葉に真顔のまま歓声の声を上げ、いそいそと朝食の準備をしている結衣のすぐ隣へと腰を下ろした。

 

 ■■■■■

 

 朝食を食べ終え、出立の準備を整えた僕と結衣は再び探検を続けていた。


「私ね。もう少し上の連中も中央政府だけでなく地方にも目を向けて良いと思うのよね」


「うん」


「別に中央政府の自分たちの拠点をまず固め、徐々にその勢力範囲を広げているという方針に反発があるわけじゃないのよ。でも、この世界には確かな生活を営んでいる人々が各地にいる……私たちはもうちょっとだけそれらの人のために力を使うべきだと思うのよ。そこにあるのも尊い命なのだから」


「うん」


「でも、塩梅が難しいわよね。私たち神祇官の数も、神様の数も無限じゃない。世界のすべてを守れるわけじゃない。もどかしくていやになるわね。自分の力の無さが。……私は色んな村の人と神様を集めて第二、第三の中央年を作ってみたりしても良いと思うんだけど、柴旅はどう思うかしら?」


「ん?……うん」


「……ねぇ、ちゃんと私の話聞いていた?」


「ふぇ?……えっ、あ、うん」

 

 ぬぼーっと歩いていた僕はちゃんと警戒しながらも一人でしゃべり続けていた結衣から視線を逸らしながら頷いた。


「ちょっと?こっち見て?私は柴旅に話しかけていたんだけど?おーい」

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