第1話

 この世界は長年神に守られ続けていた。

 純粋な『邪悪』たる魔が人間たちの住まう地上へと降りぬよう魔と高い、天で神は地上を守り続けてくれていたのだ。


 だが、2025年のある日。

 神が魔へと敗北した。

 天が割れ、地上を魔が覆った。

 純粋な暴力でもって人間を殺し、人間を食し、抵抗する人類の足掻きを容易く打ち払って世界を呑み込んだ。

 アメリカが落ちた。中国が落ちた。欧州が落ちた。


 誰もが無理だと思った。

 誰もが人類は魔に敗北するのだと。

 誰もが自分のたちに迫る死を認識した。


 だが、神はたとえ魔に負けて天から地へと落ちてもなお人類のために力を残していてくれたのだ。

 突如として人類の身に宿った『神聖術』がどんな現代兵器の攻勢を受けても揺らぐことのなかった魔を傷つけ、魔を退けることに成功したのだ。

 人類は希望を見た。

 神に祈りを捧げ、魔へと対抗するために立ち上がった。

 


 それから時が流れて2075年。

 国と呼べるものはなくなり、文明のほとんどを失った人類は小さな拠点で何とか生き延びていた。


「おぉ……貴方が神祇官様なのですね」

 

 神祇官。

 高いレベルで神聖術を扱いこなし、地上へと堕ちた神を宿した法具を駆使して魔と戦い、地上で眠りについている神へと祈りを捧げて目覚めさせる神祇官の一人である新壱結衣が襲いかかっていた魔を倒して助けてあげた人間たちに囲まれ、色々と質問を受けているところを僕は直ぐそばでただただ黙ってみている。


「えぇ。そうよ。誰にも被害が出ない状態で助けに入れてよかったわ」


 僕は柴旅ぜろ

 神祇官である結衣のあとを勝手に付いていっているだけのニート。


「もぐもぐ」


 気配を消しながら僕は地面に倒れる魔の遺体を貪り食っていた。魔美味しい。汚い触手のちゅるんというのど越しが素晴らしい。


「……あっ、あの……神祇官様。あの少年は……?」

 

 美味しく魔を頂く僕を結衣が助けた人間の一人が指さして口を開く。

 ……人を指さすのはマナー違反ではなかったか?


「ちょちょちょ!?何魔を食べているの!?」

 

 その言葉を聞いて結衣が大慌てで僕の元へと向かってきて、僕を持ち上げる。


「あー」


「残念そうな声を上げないで!ほら!ペッてしなさい!なんで魔なんて食べたの!」


「お腹空いたから……」


「少しくらいは我慢しなさい!魔を食べるとか見ているこっちが不安になるのよ」

 

 ……別に魔を食べても僕の体は何の問題もないのに。


「あー」


 結衣の腕に捕まった僕は未練たらたらしく魔の方に視線を送りながら彼女の腕の中で大人しくしていた。

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