第26話「衣装喫茶」
ここは百合喫茶ポワレ。
今日のポワレはいつになくお客で沸いていた。
学園祭の目玉であった衣装喫茶を期間限定で今日一日だけやる事になったからである。
「いらっしゃい、お嬢様」
詩音が入ると騎士姿のエリシアが出迎える。
美男子にも見える長身とその整った顔立ちはお客の女性達を虜にしてしまうだろう。
詩音を除いては・・・
「エリシア、お姉様は?」
「連れないなぁ、せっかくコスなんとかをしてるって言うのに」
コスプレの事は地方の方言という事で隠さない事にした。
下手に隠したのがバレても後が面倒だと思った詩音の判断だ。
「コスプレよコスプレ。それよりも・・・」
「ああレオナね。彼女なら控室もとい隣の教室にいるよ」
「ありがとう」
詩音は軽く一礼をすると教室を出て行った。
エリシアは詩音の反応に少し残念に思った。
「お姉様はっと・・・あらシルフィーヌ」
「ごきげんよう、シオンさん」
「その恰好、似合ってるわよ」
「そうですか?何か照れくさくて・・・」
シルフィーヌはフランス人形の様なゴシックロリータの衣装を身に付けている。
シルフィーヌ本人の人形の様な美しさもあってか、その姿はまさに等身大のフランス人形であった。
「ところでお姉様はどこ?」
「レオナ様なら奥にいますけど・・・」
「ありがとう、奥ね」
詩音が更に奥に進むとそこには衣装の着付けに四苦八苦しているレオナとメディナの姿があった。
レオナが着ようとしているのは日本の和服「着物」である。
「あらシオンお姉様、いらっしゃったんですか」
「それよりそれって着物よね?」
「お父様が貿易商をやっていまして、そのツテで手に入れた東の大陸の逸品ですわ」
「で、着せられずに困っている訳と」
「ぐぬぬぬ・・・その通りですわ」
「もういいわ。私は別の衣装で出るから・・・」
「私が着付けて差し上げましょうか?」
「できるんですの!?」
「当然」
驚くメディナ。
現代の日本では七五三や成人式、結婚式以外着る事の無い着物だが、
転生前の詩音は幼い頃からのお嬢様生活でパーティー等で着物を着る事など慣れっこなのだ。
無論他人に着付ける事もである。
「さあお姉様、私に身を委ねて・・・」
詩音は絡まった帯を慣れた手つきで解いていく。
そして一から始め、物の数分で見事にレオナの着付けを完了させた。
おおおお、と周囲から拍手が起こる。
別に詩音的には大したことはないのだが、少し照れくさい気持ちになった。
「じゃあシオンお姉様、私のも着付けて下さいます?」
そこへずいっと迫ってきた妹(仮)のメディナ。
二着あるのかとツッコミたくなるが我慢する詩音。
仕方なく詩音は慣れた手つきでメディナの着付けをしていく。
そして無事完了した矢先にもしやと思いメディナに詩音が問いただした。
「もしかして三着目あったりしない?」
答えはイエスだった。
しかもサイズも偶然にもぴったりだ。
詩音はメディナの了承を得ると直ぐに着物姿に着替えた。
「似合ってますわよ、シオンお姉様」
「似合ってるわ、シオン」
「ありがとう、メディナちゃん、お姉様」
こうして着物に着替えた三姉妹は喫茶ポワレに出向いたのであった。
―
「あの衣装見た事ないわ。何かしら?」
「東の大陸の物でキモノと言うらしいですわ」
「雅で美しいですわね・・・」
三人の着物姿に見惚れるお客達。
苦労して着付けた甲斐があったと内心嬉しい詩音であった。
―
こうして時間が経ち、今日の喫茶ポワレの営業は終わった。
「借り物だから汚さない様にと動くように苦労したわ」
「騎士の鎧って重いんだね・・・肩がこったよ」
レオナやエリシアが愚痴をこぼす。
でもその顔は笑顔で満ちていて、またやりたいという気持ちが顔に書かれていた。
詩音も同様で、また衣装喫茶やりたいなぁと思っている所だった。
そこへアリスが入ってきて朗報?を告げる。
「みなさんお疲れ様。さっそくだけど好評だったから衣装喫茶、明日もやるわよー」
「えええええええええええ!?」
やりたいとは思ったが、本当にやる事になるとはと苦笑いする詩音であった。
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