親友談義

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

国見くにみ君は、橋本はしもと君しか遊ぶ相手がおらんのかね」

 畳の上に腹ばいになって、塗り絵をしていた。仰向けになって寝ていた父は上体を起こした。

「うん?」

 首を傾げる。

里穂りほの言う友達とは、何を指すのかな」

 私も、座り直す。

「一緒に遊ぶ人?」

 私は唇に指を当てた。

「ははあん。里穂は、親友と友達の違いを知らないと見える」

 あぐらをかき、脚越しに手を組む父は、不敵に微笑む。

「どちらも友達でしょう」

「それは、クラスに在籍している人と、ほぼ同意だろう」

 そうかもしれない。という顔をする。

「クラスのみんなは、クラスのお友達という訳だ」

 私は首肯する。

「たとえば」

 父は、人差し指を立てる。

「サッカーをしようと思い、ゴールキーパーをする人が居ないと気づく。里穂は、そういう時、サッカーをしよう、ゴールキーパーをしてくれないかと素直に頼むだろう。そう、クラスのお友達にね」

 私は頷く。

「でもね、考えてもごらん。里穂には、この子だから一緒に遊びたい。サッカーでなくても、お絵描きでも鬼ごっこでも。そういう友達を親友と呼ぶのだ」

 私は、膝の上で両こぶしをぎゅっとにぎる。

「さえちゃん」

「それが、里穂の親友の名前だね」

 父は、目を細める。

「私の親友は、さえちゃん」

 嬉しい。嬉しい。

「お父さまの親友は、はっしーだ」

 私は父に抱きつく。父が頭を撫でてくれる。

「さあ、じゃあ、お父さまは、橋本君と遊ぶとしよう。里穂はみゆき君と遊んでおいで」

「そうする」

 二人で、表まで迎えに行った。

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親友談義 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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