暮れ行く街並みの中で

「狙ってねえのか?」

「ああ。別に興味ないから安心しろ」

「何で興味ねえんだよ。こんなに可愛いだろうが」

「じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ!」

「くぅ~ん」


 大きな声を出したせいか、犬が怯えている様子だ。

 途端にシェイキーは破顔し、妙な声音を出す。


「おーおー、怖かったでちゅね~もう大丈夫でちゅよ~」

「お前それ恥ずかしくないの?」

「ああん? 何がだおい」

「落差激しいな」


 俺が話しかけた瞬間に表情も声も切り替わる。


「大体、こんなところに何の用だ」

「不審者がいないか街を巡回してたんだよ」

「ってえと、お前騎士か? そんな風には見えねえが」


 咄嗟に出てしまったが、巡回は秘密騎士団的にはまずかったか?

 シェイキーが俺の全身をさっとチェックする。ちなみに今日は木剣だけを腰に帯びているが、これは武器扱いではないので誰でも持つことが出来る。


「これでも騎士見習い。お前と同じ学院生だよ」

「何だと? お前、平民だな?」

「そうだけど」


 恐らく身体つきやあまり金のかかってなさそうな身なりを見ての判断だろう。

 返事をするなり、シェイキーは今までの険しい目つきが嘘のように笑顔を見せ、突然に肩を組んで来た。


「なぁんだ、それを早く言えよ!」

「いきなりどうした」

「平民で学院生ってことは仲間だ! 同じ境遇のやつに悪いやつはいねえ」


 目の前に思いっきり悪そうなやつがいるけど。

 いやしかし、口調や態度こそ荒いものの、今の気の良さそうな感じや、野良犬に餌をあげて可愛がっていたところを見ればそうでもないのかもしれない。


「しかし見ねえ顔だな。学年は?」

「二学年」

「じゃあ知らねえわけだ。俺は一学年だから」

「年下かよ。全然見えないな」

「細けえことは気にすんなって」


 そこでシェイキーは組んでいた肩を外してこちらに向き直る。


「で、何で騎士の真似事なんてしてたんだ?」

「実際は巡回っていうより、散歩だ。散歩ついでに困っている人や不審者がいないか、こういう人通りのあまりない場所を覗いてる感じだな」

「さすがだねえ兄弟。やっぱり平民で学院に入れるやつってのは志が高い」


 まあ言い訳して訂正するならこんなもんか。仮にも秘密騎士団の日課だってことはばれるわけにはいかない。

 落ち着いたことだし、この場を離れるか。こうしている間にもクリスは巡回を進めているのだから。


「じゃあ、また学院で会ったらよろしくな」

「おいおい、待てよ」


 踵を返し、歩を進めたところで止められたので振り返った。


「何だよ」

「冷てえじゃねえか。このワンちゃんの飼い主を探してやらねえのかよ」


 言われてみればそうだ。

 この街の各入り口には門と警備があるので、目の前の犬が野良犬である可能性はゼロではないもののかなり低い。

 油を売ることには気が引けるし、秘密騎士団の活動内容に沿うかどうかも微妙だが……犬とその飼い主のことを思えばやってはだめということはないはずだ。


「それもそうだな。飼い主、探してみるか」

「そうこなくっちゃな」


 パシンと手のひらに拳を打ち付けるシェイキー。

 大広場には衛兵の駐在所がある。ここからならまだそう離れてはいないので、まずはそこに行ってみよう。


「とりあえず最寄りの駐在所に行ってみるよ」

「おう」


 そうシェイキーに告げて歩き出すと、犬と一緒についてくる。


「お前もついて来るの?」

「何か都合が悪いのか?」

「いや、別に」

「じゃあいいじゃねえか。さっさと行こうぜ」

「おう」


 まあいいか。クリスと鉢合わせた時の説明が面倒だが、どうにかなるだろ。


 大広場は先程よりも更に多くの人で溢れていた。先を見通すのが難しく、うかうかしていると犬とはぐれてしまいそうだ。

 広場の中心にある噴水や、長椅子がいくつか置いてある場所では吟遊詩人がいつかの時代の勇者の活躍を歌にし、その功績を讃えている。


「おい」

「どうした、兄弟」


 何で兄弟って呼ぶんだろう。俺にはエミリーという妹しかいないのに。


「そういやまだ俺の名前を言ってなかったな。俺はアルフレッド=バーンだ。アルフでいい」

「そうかよ。よろしくなアルフ」

「よろしく」


 いや、こいつに声をかけたのは名前を教えるためじゃない。


「でさ、犬とはぐれるとまずいから捕まえといてくれないか?」

「わかった」


 返事をするなり犬を抱き上げるシェイキー。

 まあ、首輪や手綱はないからそうするしかないんだけど、こいつがそれをやると落差がすごくて笑いそうになってしまう。

 笑いを軽く堪えていると、シェイキーが訝し気な視線を向けて来る。


「何だよ」

「いや、別に」

「さっさと行こうぜ」


 駐在所に向けて歩みを再開する。すれ違った人々からの視線がちょっと恥ずかしいが仕方がない。

 大広場を横切り、目的地がどんどん近付いて来る。

 しかし、駐在所まであと一歩と迫り、その前で談笑する騎士たちがはっきりと視認出来る距離まで来たところだった。


「ブフッウゥッ」

「おい、何だ? 突然どうした……うぉっ」


 シェイキーの戸惑いを含んだ声に振り返ってみれば、犬が腕の中を魚のように暴れ回り、強引に脱出を図っていた。

 何とか持ちこたえていたが遂に牙城が崩壊し、脱走を許してしまう。しかも、そのまま一目散に逃げだしてしまった。


「待て! くそっ、突然どうしたんだ」


 悔しがっているシェイキーだがそんな暇はない。もし街の外に逃がしてしまったら発見は難しくなる。


「追うぞ!」


 叫びつつ走り出した。

 犬は大広場から北西方向へ向かう大通りへと駆けて行く。当然足が速い上に人混みの合間を縫うのも早いので、見失わないようにするだけでも大変だ。


「すいません!」

「悪いな! 通らしてもらうぜ!」


 俺たちも人混みをかき分けながら犬を追っていき、大広場を抜けて人が減って来たところで全力疾走を開始した。

 この時間帯とはいえ、こっち方面は主に富裕層が暮らす区画なので、進んで行けば行くほど群衆の密度は低くなっていく。移動がしやすくなって視界も良くなり、何とか犬を見失わずに済んでいた。


 しかし、距離は離れていくばかりだ。

 どうする、魔法を使うか?

 いや、危険過ぎるし、そもそも騎士見習いでも市街地での魔法の使用は必要がある場合を除いて禁止されている。これがその「必要がある場合」に入るかどうかはかなり怪しい。


 様々な思索を巡らせながら走っていると、いいタイミングでまさかのハンクが犬の走る先にいるのを発見した。


「ハンクのおっちゃん! その犬、捕まえてくれ!」

「おお!?」


 こちらに気付くなり驚きの表情を見せるおっちゃん。

 どうやら非番のようで軽装を身に纏っている。おまけに何かの帰りなのか手には肉の刺された串を持っていた。


「ハフハフッ」

「何だ何だ!?」


 何と、犬は勢いそのままに串目掛けて飛びついて行く。

 確かにあれはかなり美味そうなので、追われているのも忘れてそうしてしまう気持ちはよくわかる。でもあえて言わせて欲しい。何やっとんねん。


「いいぞおっちゃん! そのまま串を取られないようにして!」

「任せろ!」


 任せろというのも少し違う気はするがそれは置いておこう。

 犬から距離を取るべく、串を天高く掲げながら、何かの踊りみたいな動きで華麗に大地を舞うおっさん。助けてもらっておいてなんだけど言わせて欲しい。何やっとんねん。


 だが、俺たちがあと少しで合流するというところだった。

 犬は一度ハンクの身体に飛びつき、更にそれを踏み台にするような形で飛んで串にかぶりついてしまったのだ。驚異的な跳躍力。獣の食欲恐るべし。


「ああっ! 俺の串が! 待て泥棒!」


 おっちゃんも一緒になって犬を追いかけ始める。


「おいアルフ! お前もあれに何かを取られたのか!?」

「いや! 飼い主を探そうとしたら逃げられたから追いかけてるだけだ!」

「そうかよ!」

「泥棒だって!? 俺も力を貸すぜ!」


 何故か知らない人が俺たちに並んで走り始めた。

 多分だけど、ハンクの「待て泥棒」を聞いて来てくれたので、泥棒は泥棒でも犬を追いかけていることがわかっていない。


「気持ちは嬉しいんですけど大丈夫です! ありがとうございます!」

「なに、固えこと言うなって!」


 まあいい。今はそんな場合じゃないので放っておこう。


「ほっほっほ、若いのばかりにいい格好はさせられんて」


 今度は知らないおじいちゃんも合流して来た。


「いいわね、こういうの。昔を思い出すわ……」


 綺麗なお姉さんまで。


「へっ! あんたら中々熱いじゃねえか! 後で礼をさせてくれ!」


 シェイキーは感動しているようだが、俺は段々わけがわからなくなってきた。

 こんな調子で人数を膨らませていった老若男女の入り混じる集団だが、犬に一向に追いつく気配はなかった。

 たまにハンクのような感じで足止めをしてくれる人はいるので姿までは見失っていないが、それももう時間の問題だ。


「すまん、ワシはここまでのようじゃ」

「じいさん!」

「私もあなたたちと一緒に行きたかった。でも、ここまでね」

「お姉さん!」


 名前も知らない人たちが次々に脱落していく。

 まあ、ずっと全力疾走してるからな。じいさんなんてむしろここまで来られただけでもすごいと思う。

 今のお姉さんを最後にメンバーは最初の三人に戻った。そうでないと事件が終わった後に「あ、ども。ちなみにお名前は……」みたいなやり取りがあるのがだるかったので丁度いい。


 生まれ育った街でも知らない風景というのはあるものだ。無我夢中で犬を追いかけているうちに、いつの間にか俺は知らないところを走っていた。

 ここはどこだ? 並ぶ建物の外装からして、北側方面ということはなさそうだ。むしろ、進むにつれてどんどん廃れていっているような気もする。

 完全に息のあがってきたおっちゃんが言った。


「はあはあ、おいアルフ、そろそろ俺も限界なんだが」

「そうだな」


 さすがに俺も体力的にきつくなってきた。


「なんだぁ? お前らだらしねえな。俺はまだ余裕だぜ」


 とかシェイキーは口にするが、汗だくで息もあがっているので嘘だろう。

 犬が街の外に出て行く感じはないし、そろそろ切り上げるべきかどうか、悩んでいた時だった。


「あれ?」


 通りの前方に何やら見慣れた人影が。と思いきや、


「ルナ!」


 ルナだった。他人なら判別の難しい距離だが間違いない。

 向こうも俺の声に気付いて何か言っているが聞き取れない。


「悪い! その犬を何とかして止めて……」


 と言い切る直前。

 何故か、犬はいつものかご以外何も持っていないルナに飛びついた。


「へ?」

「あ?」

「は?」


 全員が間抜けな声を発してしまった。

 ルナがしゃがんで視線を合わせつつ頭を撫でると、犬は尻尾を勢いよく振ってこれ以上ない喜びを表現している。


「ナッツちゃん、こんにちは。もうこんばんはかな?」

「ハッハッ」

「お前、その犬知ってるのか?」


 ようやく追いついたので聞いてみれば、ルナは一つ頷いて答えた。


「この近くの孤児院で飼われてる子だよ」

「孤児院?」

「うん。すぐそこだよ。私もたまに行って、商品に出来なくなったけど、普通に使えるような薬とかを届けてるの。今もその帰り」


 そういえばそんなことを前に話してた気がする。

 確かあれは俺たちが暮らしてる区画と、経済的に貧しい人たちが暮らす地域の境目くらいにあったような。

 そう思って辺りを見回してみると、まだ少し遠いが、先の方に見覚えのある建物がいくつか並んでいるのがわかった。


 対照的に周囲は、陽は当たっているのにどこか重苦しく、人が住んでいるのかどうかもよくわからない家屋が多い。

 経済的に貧しい人たちが暮らす地域は通称貧民街と呼ばれているが、来るのは初めてだ。正直に言って不気味だな。


「ふう」

「ルナちゃんの知ってる犬だったのか~ああ疲れた」


 事件が事実上解決したとわかって気が緩んだせいか、どっと疲れが押し寄せてきた。ハンクと一緒にその場にへたりこむ。


「ハンクさんもこんばんは。皆でこの子を追いかけてたんですか?」

「こんばんは。アルフとそこに立ってる子が飼い主を探そうとしたら、途中で逃げられたんだと。で、ここまで追いかけて来たってわけ」


 ハンクがシェイキーを親指で示したので、ルナの視線がそちらに向く。


「えっと」

「シェイキーだ」

「今日知り合ったばかりなんだ。こいつも学院生らしい」


 俺が補足すると、ルナが微笑む。


「そうなんですね。アルフの近くに住んでるルナって言います。学院生じゃないですけど、よろしくお願いします」

「よろしくな、お前もこんな可愛い彼女がいるなんて隅に置けねーなあ、アルフ」

「こいつはそんなんじゃねえよ」


 いつものやつが始まったよ、と思いつつ俺がそう言うと、視界の隅でルナの肩が一瞬だけ震えた気がした。


「そうそう。私たち家族みたいなもんだもんね~」

「お、おう。それはそうだけど……あれ、何か怒ってる?」

「別に?」


 笑顔だけど妙に迫力があるというか、笑顔だからむしろ怖いというか。

 どういうことかわからずにシェイキーとおっさんを見ると、二人は互いに顔を見合わせて頷いた。


「そういうことなのか、おっさん」

「おう。そういうことだ、少年」

「お前ら今日初めて会ったばかりだよな?」


 やけに意気投合してやがる。

 すると急にシェイキーは俺の方に手を置き、凛々しい顔つきになった。


「他人でもな、言葉がなくても通じ合える時ってのがあんだよ」

「何言ってるかわからねえんだけど」


 次に、へたり込んでいたおっさんが立ち上がり、こちらも似たような顔つきになって言った。


「いいかアルフ、俺たちは元々アダムとイヴって言う二人の人間だったんだ」

「まじで何言ってんの?」

「いやおっさん、それは俺もよくわからねえぜ」


 全然意気投合出来てなかった。


「つまり、おっちゃんとシェイキーの二人がアダムとイヴってことか?」

「そんなわけないだろうが! 気持ち悪いわ!」

「あんたが言い出したんだろ!」

「人類は元々二人の人間から始まったんだから、言葉なんてなくてもわかり合えるはずって言いたかったんだよ」

「じゃあ最初からそう言えよ。俺たちは二人で一つとか、急に親友アピールでも始めたのかと思ったぜ」

「くすっ」


 混沌として来た場に似つかわしくない声。振り向くと、ルナが口元を隠して静かに笑っていた。


「ごめんなさい。おかしくって」

「いやあ、笑ってもらえたんなら何よりだ」


 おっちゃんが親指を立ててルナに向ける。

 ルナもさっきまでのちょっと怖い感じが取れているし、そろそろお開きにしようという感じになっていく。


「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るぜ。兄弟、ルナとそのワンちゃん、ちゃんと送ってやれよ」

「おう」

「アルフのこと、明日からよろしくお願いします」

「任せとけ!」


 ルナが丁寧に腰を折りつつ言うと、シェイキーがどん、と自分の胸を叩いてから応えた。

 こいつ年下だし学年が違うけどな。


「じゃあ行くかおっさん」

「おうよ」

「ところであんた一体誰なんだ?」

「そんなことだろうと思ったわ」


 夕焼けの空を背景に遠ざかっていく二人の背中を見送っていると、後ろでルナがぽつりと呟いた。


「行こっか」

「ああ」


 二人と一匹が、並んで静かな街の通りを歩く。

 さっきまでが慌ただしかったせいなのか、それとも別の何かがあるのか。やけに時間が優しく通り過ぎていく気がした。


「…………」

「…………」


 実は、俺はルナをあそこで見かけた時から気になっていたことがあった。だが、昨日ちょっと拗ねられたこともあって、それを言うべきかどうか迷っている。


「……」

「ねえ、アルフ」

「何だよ」

「何か言いたいことがあるんでしょ」

「げっ」


 思わず声が出てしまった。こいつ、頭の中を読める魔法でも使えるのか?


「あはは、見ればわかるよ」

「俺ってそんなにわかりやすいのか?」

「う~ん、どうだろ。私がずっと一緒にいるからわかるだけかもしれないし」

「そうか」

「で、言いたいことは何?」


 質問を飛ばすルナは笑顔だ。聞いても怒られる感じはしない。


「その、孤児院に行く時っていつも一人なのか?」

「うん、そうだよ。たまにお母さんとかお父さんと行く時もあるけど」

「そうか。えっと何て言うか」

「危ないから一人で行くなって?」

「うん」


 今俺たちが歩いている貧民街は見た目がまず怖いし、素行の悪い人間たちが多く住んでいるという噂も絶えない。


「大丈夫だよ。確かに私も最初来た時はちょっと怖かったけど、ここに住んでる人たちが良い人たちだって知ってからは平気」

「知り合いが出来たのか?」

「うん。そんなに多くないけど」

「そうか」

「それにね、私たちの住んでいる辺りだって、変な人はいるじゃない。そんなこと言ってたら、一日中アルフと一緒に居てもらわなきゃいけなくなっちゃうよ」

「それもそうだな」

「アルフはね、心配し過ぎ」


 ルナはそう言いながらこちらに歩み寄り、俺の木剣を鞘から抜いた。


「私だって戦えるんだから、とうっ」


 ぽすっと俺の肩に当たる。痛みは全くない。


「振り方がなってないな。素人丸出し」

「えー、じゃあどうやって振るの?」

「ちょっと貸してみ」


 ルナから木剣を受け取り、素振りを見せる。


「こう。ほら」


 戻してもう一度木剣を振るルナ。


「こう?」

「いや違う。こう」


 次は木剣なしで素振りをして見せる。


「どう違うの?」


 ルナがいつもとは違う、子供っぽい表情を出すので楽しい。けど、適当なことをしては怒られるので真面目に取り組む。

 俺は「だから」と言いながらルナの背後に回り、後ろからその両腕を持って木剣を振らせる。


「こうだよ、こう」

「…………」

「どうした?」

「アルフ、思ってたよりも身体、大きくなってるんだね。力もすごく強くなってるし……何て言うか、男の人って感じ」

「あっ」


 しまった、力を入れ過ぎたか。慌ててルナから離れる。


「悪い、痛かったか?」

「あ、ううん。そういう意味じゃないの。大丈夫」

「なら良かった」

「ありがと」


 そう言って、ルナは木剣を鞘に戻して歩き出す。


「行こっか」

「ああ」


 思ってたよりも、か。言われてみれば、いつからかあんな風に触れ合うことはなくなった気がする。俺も、ルナの身体が想像以上に小さくて、華奢で、こいつってこんなんだったっけと正直に言ってびっくりした。

 お互いに小さい頃とは違うんだよな。

 そんな当たり前のことを考えながら、孤児院に向かい。犬を無事に返してルナを送り届け、家に着くころにはすっかり夜の帳が下りていた。


 何かを忘れている気がするが、まあいい。疲れたのですぐに寝よう。

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