鯉(コイ)
文重
鯉(コイ)
鯉が跳ねた。池で泳ぐ色とりどりの錦鯉の中で、1匹だけが黒一色だった。その1匹が時折、外へ向かって跳ねようとする。
今日とうとう仕事をサボってしまった。働き方改革なんて外国の話としか思えない。このIT全盛時代に山のような書類と格闘する日々。「定時」だの「週休2日」だの「有給休暇」なんてもはや死語だ。ブラックな職場にはブラックな精神が宿る。ふうーっと俺は大きな溜息をついた。
鯉が跳ねた。あの黒い1匹だけが、池の縁から外へ跳び出さんばかりに跳ねる。水から出ては生きていけないのに、なぜ繰り返し跳ぼうとするのだろう。
ランチタイムは唯一ひとりになれる貴重な時間。望んでいた華やかな世界に飛び込んだものの、地味過ぎて浮きまくるだけでなく、叶わぬ恋に身を焦がしている私。周囲の嘲笑が耳の奥にこだまする。ふうと小さい溜息が出た。
また鯉が跳ねた。俺/私は体内になにものかが湧き上がってくるのを感じながら鯉の池を後にした。
鯉(コイ) 文重 @fumie0107
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