第4話

 デートの約束を取り付けた。


 偉業である。


 あの後、病院から叩き出されたが、明日また来るようにと伝えられた。


 おそらく、仕事終わりのディナーデートだろう。


 しかし、緊急事態である。


 ディナーデート用の服を持っていない。

 

 お金もない。


 さっき転んで、鼻も歪んでいる。


 非常にまずい。


 彼女に恥をかかせるわけにはいかない。



「さぁ!魔術大会開催中でーす!優勝賞金はなんと100万でーす!」



 渡りに船とはこの事である。



「麗しの姫君。僕も君の騎士として出場可能かい?」


「よくわからないけど、飛び込み参加もオッケーでーす!ちょうど最終受付でーす」



 そして、決勝戦。


 ここまで、熾烈な争いだった。

 

 左腕の骨は砕け、恐らく内蔵もいくつか潰されている。口の中は血の味しかしなくなっていた。


 だが、これで最後だ。


 対戦相手は、顔を隠した仮面の姿。


 女性だ。


 顔を隠そうとも、わかる。


 わかるのだ。


「さっさとかかってきて。早く終わらせる」


「悪いが、僕は手を出さない。女性には手を出さないと決めているからね」


「ムカつく」



 彼女の周囲に火が灯る。


 轟轟と燃えるそれは、槍の様な形に変化し、周囲を焼き焦がしていく。


 彼女が指先をこちらに向けると、意思を持った尖兵の様に、炎槍が射出された。


 あと水槍、岩槍、あとなんかドラゴンみたいな奴も全て受けた。



「死ぬ!死なないけど!」


「ほんとにムカつく。手を出さない変わりに、ずっと回復魔法で治して、私の魔力切れを狙っているんでしょ」


 違う。魔法なんて使えない。


「手加減のつもり?躱す素振りも見せないし」


 違う。ほんとに躱せないんだ。


「でも、残念。左腕を動かしていないのに気づいているわ。そこで回復術式を組んでるんでしょ」


 違う。骨が砕けているだけだ。


「もういい。これで最後。ありったけ。全部使う。手加減なんかしてあげない。回復魔法も間に合わせない。私は絶対負けない。」


 絶対、左腕が無くなるやつだ。


 彼女は、固有魔術なんたらかんたら、と恐ろしい事を言っている。


 巨大な爆炎が襲いかかる。 


 ヤバい。死んだ。



「何で生きてるのよ……」


「自分でもわかりません」


「どうして……なんで……勝たなきゃいけないのに……お姉様……ごめんなさい……」


 膝から崩れ落ち。

 仮面から一筋の聖水が落ちる。


「降参だ」


「……え?」


「このテッド=グレイトデッドが勝てないものは一つだけだ」


 しっかりタメをつくる。


「女の涙さ」


「鼻の形がやだ。無理」

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