第2話鬼が来る村で
保村蒼太、否、諸葛孔明は左手首のG-SHOCKで時計を見ると、17:30を表示していた。格好はスーツにネクタイで、金のネックレスをしていた。
これは、説明書によると悪霊祓いの力があるらしい。それとは別に黒の紐の様なネックレスもしていた。そのネックレスには、「ピップエレキバン」と印字されていた。肩こりに効くらしい。
馬にまたがりまず、宿を探した。
大きな門がある、屋敷の扉を叩いた。
「たのもう、たのもう、私、諸葛孔明だが!」
と、門の扉を叩いた。
間も無くすると、
「うちは、新聞間に合ってるよ……こ、孔明様。孔明様じゃあ~。じいさん来ておくんなまし」
ババアは僕の顔を見るなり腰を抜かし、ジジイを呼んだ。
「何だ?ばあさん!……こ、こ、孔明様~」
「私、諸葛孔明です。一晩の寝床と
僕は出来るだけ、冷静に話した。しかし、ジジイとババアは、僕が何だか神様の様にありがたがれて、諸葛孔明は偉い人だったんだなぁ~、と思った。
「ささっ、孔明様。御上がり下さい。何せ、ばあさん……年老いた家内との2人暮らしで行き届かぬ事はありますが、お許し下さい」
ジジイが挨拶した。
「なぁに、今夜、一晩の事です。これ、チップ」
と、僕はジジイに銭を渡した。
「あ、あ、ありがたやぁ~。ついに、孔明様じきじきにおいでなすって、こりゃ、キャツもお仕舞いだべさ」
僕は風呂を頂き、上がるとテーブルに豪勢な料理が並んでいた。
酒も旨い。
「しっかし、天はわしらを見捨てなかったのう、ばあさん」
ばあさんは、僕にお酌しながら、
「神様が孔明様を遣わされた。キャツも明日で終わりですばい」
ガッハッハッハッハ
3人全員が高笑いした。
腕時計を見ると、20:18を表示していた。
孔明はスマホで明日の天気予報を見た。傘マーク。今夜から雨が降りだす。明日も泊めてもらおう。
「ジジイ、ババア、今夜から明日にかけて雨が降るから、明日も泊めてくれるかな?」
『いいトモ~』
「な、何て、お人だ。天気を読めるとは。さすが、孔明様。まさか、こんな天気が良い夜に雨が降るとは思いませんがのぅ」
と、ジジイがいった。
「こらっ、じいさん、孔明様を何だと思ってるの?凄腕、妖術遣いの孔明様よ!キャツを倒せるのはこの孔明様なんですから……」
ザーッ
雨が降り始めた。
「す、すんません。この、ジジイを殴ってくださいまし。ま、まさか、雨が降りだすとは」
僕は気持ち良くなり、
「信じていただけましたか?ジジイ」
「はいっ。そりゃもう。このジジイは涙が出るけんね。キャツも明日で終わりよ!な、ばあさん?」
「そうですとも~」
しばらく、旨い飯を食いながら酒を飲んでいると、1つ気になる点が。
「ねぇねぇ、ジジイ、ババア、キャツって誰の事?」
「ワッハッハッハ、孔明様はご冗談も上手い!な、ばあさん?」
「そうですよ~、キャツはキャツでございますよ!」
「だから、キャツって誰?」
ジジイとババアは真顔になり、
「孔明様、それマジ?」
「うん、マジ」
バキッ
「いって~な!何しやがる」
「それは、こっちのセリフじゃ!貴様、孔明様の名を語る痴れ者じゃな!」
「何を言う。雨も当てたではないか!」
「じいさん騙されたらいかんけんな!じゃ、
証拠を見せな!」
僕は焦った。自分が諸葛孔明である証拠がない。
あっ、困ったときは妖術辞典だ。
降っている雨を止めよう。
「ジジイ、ババア、今からこのどしゃ降りの雨を止めるからな」
「や、やれるもんならやってみろ。そうすりゃ、信じてやる」
僕はぶつぶつ念仏を唱えた。
……
雨は急に止まった。
「さすが孔明様。わしゃ、最初から孔明様を信じておった。疑ったのは、ばあさんですばい」
ばあさんは慌てて、
「そんなこと、ないですよぅ。孔明様と信じておりました」
そして、僕は「キャツ」の説明を受けた。
毎週、山から鬼がやって来て、畑の作物や若い女を拐って行くらしい。鬼の名は、権田タケシと言う名らしい。
元々は、人間で優しい青年であったが、母親の病気を治すのと、自分の魂を鬼に売る契約をして、権田タケシは鬼になったと言う。
身長は2mを越える化け物らしい。
それを明日、倒さなければならない。
僕は、武器の説明書をよく読み、明日の戦いに備えた。
ジジイとババアは安心して、布団を用意して3人で川の字になって眠った。
朝、ドシン、ドシンと言う足音で目が覚めた。
ジジイは望遠鏡で外を眺めていた。
「お、おはようございます。孔明様、キャツが現れました!」
「タケシが来たのか!望遠鏡貸して」
望遠鏡には、角を3本生やした真っ赤な鬼が山から下りてきた。
畑の大根を抜いて食べ始めた。
「孔明様、そろそろ出番です」
「ジジイ、ババア、世話になったなぁ。これは、形見じゃ」
と、ジジイとババアにピップエレキバンのネックレスを渡した。
僕は武器を持って、権田タケシの立つ畑へ歩いて行った。
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