第一章「番鳥は踊る」

幕間・ある少年の追憶Ⅰ

                 ◇


 幼い頃のある日、何となしに手に取った木の棒の感触を覚えている。

 棒を振り回すと、不思議と気分が高まり、何かを殴りつけたい衝動に駆られた。

 そしてある日、自分は彼を思い切り殴りつけた。

 少し上の年ごろの、身体の大きくて気の強い男の子だった。

 彼は仲間と一緒に、子豚のように丸々と太った気弱な男の子を蹴り回していた。

 

 だから、思い切り殴りつけた。

 

 嫌な感触がして、意気揚々と喚いていた彼は地面に転ぶ。

 垂れる鼻血が白い歯を赤く染め、彼は呼吸もままならないほどに咽び泣く。


 そんな様に、妙な快感を覚えた。


 ふと気づくと、彼らは恐ろしいものを見るように自分を見ていた。

 虐められていた、彼でさえも。

 あの頃の自分は、その意味をまだ理解していなかった。


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