第4話
「おれが怪しい奴に見えるか?」
秀は出来る限りの曇りの無い眼でそう問うた。まあ、曇りの無い眼を作ろうという時点で十分に怪しいのだが。
「見える!」
薫には先ほどの経緯からそう断定する。
「即答すんなよ。……そういえば、お前は何でおれにいきなり襲い掛かってきたんだ?」
「だって、みわこをじっとみてたやろ」
(ああ、そういうことか)
自分が襲撃された理由に合点が行った。
「別にお前らを攫ってどうこうしようなんて思っちゃいねえよ。おれは……」
その先の言葉に窮する。さすがにタイムスリップのことは言えない。かといって、良い言い分があるという訳でもない。
「だいじょうぶだよ、このひとわるいひとじゃないよ」
舌足らずだが気品を感じさせる声が響く。秀にとっては救済の声、正に女神のような声であった。
「なんで、そんなことがわかるんや?」
「なんとなく、だよ」
その「なんとなく」には異様な説得力があった。
「みわこがそういうんなら、そうやろうな」
疑うのを諦めた薫は秀に向き直って言う。
「まあ、アンタがあやしいやつやないちゅうことはみとめたるわ。でも、もしみわこにへんなことしたら、わいがゆるさへんからな!」
「ああ、分かった」
幼児の精一杯のカッコ付けを微笑ましく思いながら、秀は頷いた。
「あ、それと、アイス買うてくれるって言うとったやろ? わいとみわこのぶんもやで!」
「分かってるよ」
秀は苦笑いしながら答えた。
(ちゃっかりしてるぜ、全く)
アイスの店まで並んで歩き、それぞれの好みを聞き注文する。
「わたし、イチゴがいい!」
「わいはチョコチップ!」
「じゃあ、おれは抹茶にするわ」
「アンタもくうんかい」
「おれの金だろうが、おれが使って何が悪い」
「そっか。それもそうやな」
店員から受け取ったアイスを秀は子ども二人に渡す。
「ありがとう!」
美和子の屈託のない笑みに心が弾む。恋に落ちてしまいそうだった。
(いや、落ちねえよ? 可愛いとは思うけどさ、それこそ事案じゃねえか。でも、白鳥にもこういう頃があったんだよな。現在の白鳥だったら『あなたに奢られるなんて私のプライドが許さないわ。ほら、いつも通りあなたは私に奢られてなさい』って感じか。ん? おれ今白鳥にアイス奢ったよな。うわ、人生初・白鳥に奢るが実現しちまった! スゲェ、これは歴史(おれ史)に残るぞ。まさか、こんな所で。……あ、これはおれの妄想っていう設定だった)
近くにベンチがあったので、三人仲良くそこに座りアイスを食べる。
そして、改めてショタ薫とロリ白鳥を見る。
(おい、その言い方止めろ。自分で自分のことショタっつって哀しくならないか?)
なるほど、確かに子どもというものは可愛らしい。アイスを美味しそうに頬張る姿を見れば、先ほど散々暴れられ変態呼ばわりされたのも許してしまえるくらいだ。
(それは一理あるな)
ショタ薫もまあそれなりに可愛らしくはあるけれど、ロリ白鳥には到底及ばないのであった。出来ることなら光源氏よろしく自分が引き取って理想の紫の上に育て上げたいと思うほどである。
(お前はおれを犯罪者にしたいのかよ)
ああ、平安時代に生まれたかった!
(それはお前の願望だろうが)
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