第5話

まあ、それはそうとて、自分がこの時代に来た目的は何かをそろそろ突き止めなければならない。そのためにはこの二人から話を引き出していくしかない。

「えっと、何から話せばいいんだ……。ああ、そうだ。君達いくつ?」

「ななさいだよ」

「わいははっさいやで」

 無邪気に答える二人。どうやらもう怪しまれてはいないようだ。……七歳と八歳ということは小学校二年生、この時代は十年ほど前だと分かった。そして、周りの気温、服装と白鳥が京都にいることからおそらく今は夏休みだと推察できる。

「そんなことより、アンタはなにもんなんや」

 ショタ薫の鋭い指摘にギクリとする。ここで本名を教えるのは得策ではない。そんなことをすればタイムパラドックスが起きるだろう。何故なら、秀はまだこの二人とは出会ってはいけないからだ、ましては十年後の姿でなんて。

「お、お兄さんはお兄さんだよ」

 精一杯の爽やかな笑顔で誤魔化そうとするが、ショタ薫は更に訝しげな眼差しを向ける。

「やっぱこいつあやしい! アイスおごってくれたんもわなやったんや!」

「ち、違う、断じて違う! 信じてくれよ! な、お前なら信じてくれるよな、白鳥?」

 未来の御主人様に救いを求めるが、これでは墓穴を掘ったとしかいいようがなかった。

「てゆーか、なんでわいらのなまえをしってるんや?」

 しまった、と思った頃には遅かった。

「えっと……、それは……」

「わたしはしんじるよ」

「え……」

「な、なにいうとるんや、みわこ! どうみたってあやしいやろ!」

「さっきもいったでしょ。このひとはあやしいひとじゃないよ。……たぶんだけど、このひとはいいひと。そんなきがするんだ」

 今すぐこの天使を抱き締めたい衝動に駆られた。が、そんなことをすれば、変質者になってしまうので必死に理性を保つ。

「そうだよね、おにいちゃん」

 ロリ白鳥は真っ直ぐ秀に問いかける。

「ああ、そうだよ」

 秀もロリ白鳥をしっかりと見詰め返し、答える。

「それはそうと、なんでわいらにこえをかけたんや?」

「お前らが何か困ってるんじゃないか、って思ってさ。ほら、困ってる人は助ける。当たり前だろ?」

 スラスラと言葉が思い浮かんだ。十年後の白鳥がよく口にしていた言葉だからだ。

「な、なんでそんなことわかんねん……。アンタ、さてはエスパーやな!」

「いやいや、おれは通りすがりの正義の味方だよ」

 またもや、何処かで白鳥が言った台詞が出る。

「じゃあ、せいぎのみかたさんってよぶね」

「あっ、いや、お兄ちゃんと呼んでくれ」

「うん、わかったよ、おにいちゃん」

(これは、萌えるぜ!)

 幼女にお兄ちゃんと呼ばせて興奮している変態の姿がここにあった。

(変態じゃねえ! シスコンだ!)

 もうどうしようもなかった。

「それで、何に困ってたんだ? あ、もしかして迷ったとか?」

(京都ってバスの路線とか多いし、大通りから外れた道に入っちまうと分かんなくなるんだよな。薫の案内がなかったらおれだって迷ってただろうし)

「すごーい、あったりー! うん、まいごなんだよ」

「そこ、げんきにこたえるとこちゃうで」

(微笑ましいやり取りだな)

「で、何をしてて迷ったんだ?」

「ママのたんじょうびプレゼントをさがしてたの。ママね、にほんのぶんかとかだいすきだから、ここならママのすきなものがみつかるかなっておもって……。あ、これママにはないしょだよ、びっくりさせたいから」

(か、可愛い‼)

 秀はロリ白鳥にメロメロであった。

「よし、おれも一緒にママのプレゼントを探してやるよ。お兄ちゃんに任せなさい!」



 調子に乗った時の秀は普段の三倍の力を発揮する、かどうかは定かではないが、まがいなりにもガイドというか子守役を務めていた。

「で、プレゼントは何が良いと思うんだ?」

「おかあさんに、これからも、げんきでいてほしいから、おまもりがいいな」

 白鳥の両親がその後、事故死することを思うと、胸がきゅっと締め付けられた。

「お守りか。じゃあ清水寺に行くか」

 秀にとっては本日、二度目の清水寺であったが、ロリ白鳥の願いなら、もう一度行くくらいは、どうってことはなかった。

 清水寺のお守り授与所で白鳥は健康成就のお守りを買い、薫は商売繁盛のお守りを買った。そういえば、この頃、薫の家はまだ旅館をやっていたのだったと思い返した。この後、潰れることも知っているので、これにも辛くなった。金は秀が払った。

「じゃあ、薫も頑張れよ」

 薫と握手した瞬間だった。

 身体が何処かに引っ張られる感じがした。もう現代に戻らなければならないようだ。

「これから辛いことが起こると思うけど、絶対大丈夫だから。俺がいるから! 未来で待ってて!」

 秀は、それだけ伝えて、現代へ戻って行った。


「おはよう、秀」

「あ、あれ? おれ寝てた?」

 秀は目を覚ますと、白鳥邸の縁側で寝かされていた。

「ええ夢は見れたか?」

「ああ、何か不思議な夢だったな。小さい白鳥とお前が出てきてさ」

「へえ、面白そうな夢やな」

 秀はふと、仏壇を見た。白鳥母の写真の前に、あのお守りが供えられていた。

「夢じゃなかった⁉」



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白鳥さんの短編集(高校生編) 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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