赤き果実の禍根 「えっ、私が単独任務⁉」3
「正直、本来のアンタたちの任務とは違う内容だから申し訳無いとは思っている。だが、この任務は組織の根本に関わる重大な何かを秘めている。そんな気がしてなら無いんだ。これは俺の勘だけどな」
Kさんは困ったように眉を下げて、口を綻ばせる。
「それくらい大きな仕事って事なんですね」
まぁ、最初は本当に嫌で嫌でしょうがなかったけど、Kさんがここまで必死なの初めて見るし、必死になるくらい重要な任務と言う事なら興味が無いと言ったら嘘になる。
任務は不安要素しか無いが、それ以上の何かがある気がする。
「そうですね。うん。……そこまで必死に説得してくれるのなら、頑張るしかないじゃないですか。なんたって、シーカーちゃんは天っ才ですからね! 何かを壊す事は得意でも、それ以外は絶望的に何も出来ないし、ミスも連発しちゃいますけど、何とか頑張りましょう! 一肌脱ぎましょう!」
泥舟に乗った気持ちで居てください!
そう言って、私は勢い良く立ち上がる。
「いや、最後の不安要素しか無いんだが」
Kさんはふっ。と軽く息を吐き出し、へにゃりと笑いながら一呼吸置き
「よしっ、俺の仕事は終わり!」
と、パンッと膝を叩いて立った。
「正直マジで不安しか無いけどな! 胃に穴が開きそうだぜ。……でも、本当に今のアンタが組織の希望の光なんだよ」
右手を差し出してきたので私も手を取り、少しの間握手をした。
「それじゃあ、隊長。後は色々捕捉ヨロシクな!」
パッと手を離すと、軽くストレッチをしながら意気揚々とドアに向かって歩く。ノブに手を伸ばしたとき、何か思い出したかのように止まって、コチラに振り返った。
「そうだ、シーカー。今日の夜、いつもの場所集合な。任務前に最後の晩餐するぞ!」
縁起でもない事を言うな。と思いながら私は「分かりました」と答えたのだった。
Kさんが帰ってから、隊長に軽く頭を数発叩かれた。
自分でも驚くくらい良い音がした。
「ったく、お前って奴は。馬鹿なんじゃねぇのか。おま、お前さ……」
肺から空気を全部抜く勢いで溜め息をつかれる。
「お前、上層部に楯突くなよ。お前とKさんの会話、気が気じゃなかったわ。ったく……」
「えへ。つい、いつもの癖で……」
へらりと頭を下げると、今度は思い切り頭を叩かれた。
「オフの時は無礼講としても、今は仕事中だと言うことを忘れるなよ」
「実に反省しております」
深々と頭を下げた。
それを見た隊長は、また大きな溜め息を一つ吐き、もう分かったから、任務の話に戻るぞ。と言った。
ついでに今までの話もまとめる。
今回の任務はギフトを産み出していると思われる「トゥ・ピース」と言う施設に潜入すること。
実際にギフトが産み出されているかの確認と、産み出し方の調査。
この「トゥ・ピース」と言う施設は、ノーマティ保護シェルターと呼ばれる場所らしい。
主に差別や虐待を受けたノーマティの女子供を一時的に匿う所だと言っていた。職員も利用者も全員ノーマティらしい。
だから私に白羽の矢が立った訳だ。
……最初からこう説明してくれたら良かったんじゃ? と思ったが、話を聞かずに暴走した私も悪かったし、言わぬが花か。
「今回の任務って施設にこっそり入って資料を見付けるとかじゃなくて、施設の一員になって潜伏するんですよね? つまりスパイ」
「そうだな」
隊長は頷く。
「えーと、潜入方法は?……え゙っ」
資料に嫌な内容が見えた。
「あの大通りのデモに参加しろって⁉クソ暑い中、クソみたいな集団に⁉」
「そう書いているな」
隊長は他人事のように、私の言葉を軽く受け流す。
「定期的に開催されているものらしい。今回は今日と明日の二日間だな。明日、そこに参加しろ。そしてこの男と接触して潜り込むんだ」
そう言って見せてきた写真は、少し痩せている優しそうな顔の初老の男性だった。
「この人は?」
「トゥ・ピースの施設長だ。どうやら毎回このデモ活動に参加しているらしい」
「私もあのデモに参加して、どうにか懐に入り込めと。成る程成る程」
うんうんと頷く。
「実に単純明快なですね! ……なんて思うわけないでしょ。んな、無茶苦茶な。行き当たりばったり過ぎますって。何か他に作戦は無いんですか」
正直な話、マジであのゲボ活動に自分が参加する姿を考えたくないし、見たくもない。
「無い」
あっさりと言い切られた。
「嫌だろうがなんだろうが仕事は仕事だ。腹を括れ。それにこの方法が手っ取り早いし効率的だろう」
「え、じゃあ、ソレが失敗しちゃったら……?」
恐る恐る聞いてみるが、隊長は「俺の専門外の事だしなー」と本当に他人って感じだ。
「ダメだったら、自分で考えてどうにかこうにか潜入するしかないだろ。んな心配すんなって。大丈夫大丈夫」
ポンポンと同情するように肩を叩かれた。
隊長とは長い付き合いだから知ってはいたけど、放任主義と言うか無責任と言うか……
溜め息をついた。
「じゃあ、他にこの方の情報をもう少しくれませんか? 手がかりと言うかお近づきになる方法考えるんで」
「無い」
またもや、きっぱりと言われてしまった。
「えぇ……」
困惑してしまう。じゃあ、どうしろと言うんだ。
「俺は資料を受け取った時に、あの写真とさっき言った情報以外何も教えられていない。俺はお前の上司だから任務の内容についてザッとは知らされるが、任務に関して基本的に部外者だからな。詳しくは知らなくて良いってことらしい。ま、知りたければ、またKさんに聞きに行けよ。何かしら教えてくれるだろうさ」
それもそうか……。とは言え、Kさんとは夜に会う約束しているし、その前にもう少し他の情報を入手したい気もする。
施設長の情報じゃなくても他の……何か。
「あー…………あー! じゃあ、ギフト! 確か一人捕まえたんでしたよね? その方に聞きに行きます。口を割るとも思えませんけど施設長とギフトの情報? 関係性? 聞けるかもしれないし、一石二鳥的な? 何もしないよりはマシでしょ」
あぁ。と隊長は思い出した顔をした。
「それなら、ドーナツ。持って行ってやれ。ギフトの奴は尋問部隊が預かっている。今も尋問中のハズだ。それに、ブタとウサギもその件で手伝いに行ってる」
幻覚のブタと悪夢のウサギ。
暇な時はいつもこの部屋に居座っている二人が居ないと思ったら、あっちに行っていたのか。
「あぁ、あの二人そっちに副業しに行っているんですか。二人の能力ならこっちよりあっちの方が向いてますもんね。てか、本業(暗殺)より副業(尋問)の方いっぱいやってるんじゃないですか? いっそ、あっちが本業みたい………な…………」
ちょっと言い過ぎた。何も言ってこないが、雰囲気的に怒ってる。かなり怒ってる。
「シーカー」
声が地鳴りくらい低い。
「…………」
ドガン
大きな振動音がした。テーブルの脚を蹴ったのだろう。
「下らないこと言ってる暇があるなら、さっさと行け」
隊長の地雷を踏んでしまったことに反省しつつ、ドーナツを持って急いで尋問部隊の所へ向かった。
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