第1話1-2 どうしてこうなった

「そういえば学園長室に傑にぃいるのかな」

ロッカーに靴をしまいながら隣に立つ翔に話しかける。

「あー、泊と熾に聞く?」

はくおきは名前の通り紅白の小鬼で泊が白色、熾が赤色をしている。鬼祷傑きとうすぐるが作った式であり主の場所がすぐわかるその上、力の持ち主に似たのかどこにいて何をしてるのか何を考えているかもいまいち分からない。

「2人なら聞きに行かなくても、」

「はくの事呼んだ?」「おきの事も呼んだ?」

「そうだった探さなくても来るんだ。」

中履き用の靴に履き替え中に入ろうと振り向くとロッカーから顔を出す瓜二つ赤と白が覗いていた。

髪の色こそ違えど瞳の色は主と同じく蜂蜜のような白金のような無機物に何も捕えない4つの目がこちらをじぃっと見ていた

「2人とも急に出てくるとびっくりするよ」

「主なら保健室にいる」「よしかずとるかのところに主いる」

特に焦った様子もなく主の場所を仲良くふたりで順番に言い終えると要は済んだとばかりに小鬼たちはどこかへ行ってしまった。奏と翔は走らないように保健室に向かう。幸いにも学園長室へ向かうより保健室へ向かう方が近く、陽の光にさらされ、落ちていた体力も余計に削るようなことはなくすぐ目的地に着いた。入った瞬間嗅いだことのある安心する甘やかな匂いが風に運ばれて通り過ぎる。入って左手側に並んでいるベットの近くグラウンドに面した窓に腰をかけて日向ぼっこしていた彼、この学園の長であり小鬼の主でもある鬼祷傑きとうすぐるはゆっくりと振り向きながら近くの診察台の上に置かれていた飲みかけのコップを手にこちらにゆっくり近ずいてきた。全てを見通すかのようなでも尊大ではなく柔らかで暖かな雰囲気のある声で2人に話しかける。

「来たな。待ったぞ」

ゆっくりこちらに歩み寄って入口近くのソファーに腰を据え長くしなやかな足を組み、先を促すようにこちらを覗き見る。

「どうして普通科に混じって授業するのか初めから説明してもらおうと思って」

奏は話を聞く体勢を取ってくれたのだと解釈し翔と2人で傑の前のソファーに腰を下ろしそう問いかけた。すると瞬きをした傑が思わぬ事を言った。

「はて、こやつから聞いとらんか」

翔くんを指さしながら小首を傾げる傑は何千年も生きたすごい人には到底見えず幼く見える、行動も相まって浮世離れした美しさが少し和らぐ。

「翔くんも、普通科に混じって体育が受けられるようにしたから行くようにって言われただけだって聞いたよ」

「ふむ。そうだったかな」

右人差し指を上唇に当て親指で顎を撫でながら考える素振りは絵になるが、多分何も気にしていない。

『知らぬ』で終わらせると怒られるとわかっているからこその行動だとこの場にいる誰もがわかっている上に本人も自覚しての行動ゆえタチが悪い。すると金髪で中性的な美人、美和よしかずが傑のフォローのために口を開く。

「傑様が説明不足なのはいつもの事だけど今回は少なすぎると私も言ったのよ?」

「かずがあの後改めて説明しようと思って追いかけようとしたら、」

「いや分からなんだら聞きに来るだろうて」

「かずは長いことここ開ける訳にも行かないからなー」と

自分は何もしてないと遠回しに伝えてくる赤髪のひょろ長いイケメン流華るかが口を開く。

「まぁとにかく、ぬしらが普通科に行く説明するのはいいが役不足だな」

「「役不足?」」奏と翔は2人揃って首を傾げる。

美和と流華は特に驚いている様子もないところを見るとあとの役がなにか知っている様子だ。2人で顔を見合わせ首を傾げていると、戸が空く音がして、「主猫きた」「主犬も来た」とどこかに消えていった小鬼がそれぞれケモ耳の生えた男の子二人を連れてきた。

「何っ!?どこ行くの!?僕授業出てにぁとテスト怪しいんだけど!?」

騒がしく、滑舌が怪しいオレンジの耳と二股になったしっぽを持った可愛らしい雰囲気の彼を引っ張ってきたのははく

「いや熾さんや翔様のとこなら自分で向かうので引っ張るのはやめて頂きたいのだがー」

間延びした砕けた丁寧語。紺色の大きな耳としっぽの整った顔立ちの彼を引っ張ってきたのはおき開かれた扉の横の身長がだいたい何センチかわかるシールを確認すると、小鬼の2人は120くらい。紺色の彼は180以上、二股の彼は160前後、確認するまでもなく子供身長の小鬼に引っ張られるのはさぞえらいだろう。

「いや保健室着いたしそろそろはにゃして欲し、い。あぁっ!かにゃー!」

オレンジの二股の彼は騒々しく、入ってきてからも、泊に手を話してもらったあとでもずっと騒いでいる。自分の名前を知られていた奏はどこかで会ったことあるか考えていたところ、やる気のない声音に思考を遮られる。

「翔様ー出来れば助けて頂きたいのですが」

大きな彼はほんとに困っているのか疑いたくなる喋り方なのに丁寧語という器用なことをしながらおきに掴まれていた手をするりと外すと翔に近づく。すると備え付けの水周りを私物化している美和よしかずがお茶を入れながら注意を飛ばす。

「凪、騒がないの。ろくも学校では先輩でしょう?せめて敬称はやめなさい」

「はぁーい」「ですが私は翔様の護衛なのでー」

オレンジの彼凪なぎと呼ばれた方は素直に返事をしていたが紺色の彼、ろくと呼ばれた方は間延びした真剣みのない声色で一言付け足す。オレンジの彼は素直に聞くのだなと奏が意外に思いながら二人を見つめていたら、「そこまで見られると、見つめ返してしまいますよ?」

いきなり目の前が真夜中の空色と月の色のように深い闇のようでどこか吸い込まれそうな髪と瞳に思考が戻される。「え、誰」ぼーっと眺めていた奏が彼らの名前を聞いているはずもなく、思わず問いかける。すると「ろくとでも呼んでいただければ」とさらっとやる気なくどこか隙のない態度で名前を教えてくれる。「え!ずるいよー僕も自己紹介する!」

「僕はね凪って言うんだよ!さっき美和ちゃんに呼ばれたし名乗らにゃくてもよかった?」

発音が怪しいまま初対面のはずの凪がどうして自分の名前を知っていたのか考えるのをやめた奏が自分も名乗ろうと声を出すために息を吸ったところで傑に遮られる。

「こやつらを知らんのは奏だけゆえ。これで話が進められるな」

自分だけが蚊帳のかやのそとだった事実を奏が大きな目を倍以上にして驚いていると、先程傑から言われた『役不足』の言葉の意味が翔と言葉を発した本人の口から以外でもなんでもない答えが告げられる。

「さっき言ってた役不足って録と凪の事だったの」

「そーさ、かなでは保健室の主だしそなたら獣は同じくクラスだしな」

奏はあまり丈夫ではなくほぼ保健室登校をしておりクラスにも顔を出しておらず、3人が顔見知りで1人だけ何も知らない状況なのが腑に落ちる。

「それで傑様。普通科に行くって話は何きっかけなんですか。」

翔が尋ねた疑問はここにいる教師を除いた4人が抱えている疑問だった。そして、傑が始めた話は8割傑の事情というとんでもマイペースな事情だった。


「普通科に専門科の生徒が混じっているようでな。混じっているのは良いのだが正式な手続きではなく無断。つまり使生徒がワシに断りもなく入学したようでな。今のところ女生徒1人、男子生徒2人なのはわかっておるのだ、それ以上は見えてこん。魔が払える光力こうりょくなのか治癒が使える聖力せいりょくなのか、我々をばっするものなのか。あぁ、ただ単に知りませんでしたということはなかろう無断だしな。学生の名簿で調べようにも特殊、専門、普通科とあれば、どこかが抜ける。各教師教頭に伝えても進展は無い、上手く隠れられたものだ。普通科に混じっていることは確実なのだからそこから探ろうにも密偵が欲しい。だが普通科から出す訳には行かん。専門から出そうにも結託されたら叶わん。よって特殊科であるそなたらに頼んだのだ。特殊科は能力値によってクラス分けされておる。よってクラウンの4人で今回の問題を解決してもらう。」

「 ―わかったかな?」

ここまで喋りきった傑は一呼吸おいて私たちに理解したよなと凄みのある笑みを向けてきた。

要は特殊科1番上のクラスであるクラウンで能力値の高いメンバーを集めたのだろう。だが腑に落ちないのはしょうろくが順に1、2を争っているのは知っているが凪と奏が入っているのが説明を聞いた全員が気になった。

「普通科の混ざりものを私たちが貴方様の前にお連れすれば良いと言うことでしょうか。」

「犬は話が早いな」「私は狼ですが、」

事情をすぐに飲み込んで、軽口を叩きながら丁寧語て牽制している禄と我関せずを貫く傑の間に陽気な声が遮る。

「はーいしつもーん!」

「なんだ猫の。」「僕より上に強い子いたよね?その子じゃだめだったの?」

自分の疑問を解決しようと元気よく手を挙げた凪は、「そやつはおなごゆえ」

とけむに巻かれ、「奏は良いんですか?」と翔が傑が答えた凪の疑問に対しての答えの矛盾を突くと

「吸血鬼の、細かいな禿げろ」と暴言が飛んできた。

思わずと言った様子で嫌ですと答えている翔を見ていた奏が口を開いた。

「じゃぁ、私と翔くんが同じクラス、禄くんと凪くんが同じクラスで混じって偵察するの?」

先程自分が翔と同じクラスにいた事によって2人組だと思った奏が傑にそう問いかけると、

「いや、犬と猫は別だ」と言いおいて話は終わったとばかりにいつの間にか飲み干していたコップを美和に手渡し白金の長く真っ直ぐな髪をなびかせながら保健室を後にした。

傑がいなくなったことによって少しばかり張り詰めていた空気も和らぎ落ち着いたところで、今まで会話に加わらなかった美和よしかず琉華るかすぐるのコップを片付けたついでに飲み物を運んできて本格的に腰をおちつける形になるといくらか砕けた口調になったろくが問いかける。

「ひとつ確認なのですが。」

「僕が言えることならいくらでも答えるわよ」

そう美和が答えると、

「情報を得た場合そう出ない場合の報告先はどこでしょう。」簡単な疑問を口に出した後、昼休み4人で話し合ってまとめた意見を週の終わりに学園長室まで持っていくということで話が決まった。すると測ったように下校の放送が始まり、特殊科は寮完備で皆同じ場所に帰ることもあり一旦荷物を置いたら寮の自習室に集まり今後の対策を練ることで、保健室での話は終わった。

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