第1話

「ジェイムズ!」


一階のフロアに響き渡った怒声が、ビリビリと空気を震わせる。その怒鳴り声はエージェントなら誰もが聞いた事のある女性のもの。しかし、いつもならあんなに声を張らない彼女が何事かと、慣れない新入りはビクリと震え。対照的に、古参たちは「またかよ」と言うようにため息を吐いた。

フロア中央に位置するカウンター。

そこは、写真や書類のバインダー、データ化されたな情報を少数精鋭で管理する場所だ。エージェント達に仕事を割り振り、そしてそれが円滑に働けるようにサポートする、『PREXプレックス』の心臓とも言える部署である。

そこの副統括をしている女性が、一人の男性と口論になっていた。

「あー、メア……。“Mssミス”. Knightナイト、えーっと、こちらとしては?……あー、前々からその申請はお断りさせていただくと伝えたはずだが……。」

「何が“Mssミス”よ!そんな嫌味のように未婚を主張させないで頂戴ジェイムズ!私は“Msミズ”ですし、あなた、いつもはそんな呼び方しないじゃない‼︎」

否、女性が一方的に男を怒鳴りつけていた。哀れにもキレられているのは、背の高い金髪の美丈夫だ。

「……事実未婚だろ。」

「黙らっしゃい‼︎」

先ほど哀れと言ったが撤回しよう。男の方も、やめておけば良いのに火に油を注いでいる。だが、どうもそれにはが入っているようでタチが悪かった。

ミス……いや、ナイトと呼ばれた女性は何かの書類を男に突きつけた。

「ジェイムズ、私はいつも言っているわよね?」

そんな彼女に対し、書類をきちんとも見ず、男___ジェイムズは降参だとばかりに両手を挙げた。

「殺すなら綺麗に、だろ?かなり血飛沫は抑えたと思っていたが、すまない」

書類コレはそれじゃないわよ馬鹿!しかも、あのターゲットは殺さなくてもよかった奴じゃない!」

堪えきれなくなったのか、彼女はとうとうジェイムズの襟首を掴んだ。シルクのシャツにシワをつけながら襟をギリギリと締め上げていく。

その副統括の役職名は伊達でないのだろう。確実に締まっていく首。ジェイムズはつーッと冷や汗をかいた。

「あー、ミズ・ナイト?本気でちょっと苦しいな。」

「本気で締めてんのよ馬鹿野郎!そして、アンタは、いつになったら‼︎」

「ミズ・ナイ___メアリー?あの、本気でマズイが?」

ついにジェイムズはいつもの呼び方に直したがどうにもならない。手を振り解こうと本気の抵抗を始めた彼に、ミズ・ナイト___メアリー・ナイトは今日一番の大声をだした。


「貴方から、まともなplayをしたって報告はいつもらえるのかしらねぇぇぇ‼︎」

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