#22『対決』

「――何だよあれは? 高宮……お前、一体どういうつもり?」


 俺は、体育館を出て教室へ荷物を取りに戻る途中――小森からそう尋ねられていた。


「どういうつもりって……何のことだよ?」


「そりゃ、決まってるだろ。さっきの朱水院さんにいきなり『勝負しろ!』って叫んだあれだよ。いきなりそんなことするもんだから、めちゃくちゃびっくりしたよ」


「あれは……」


 ……正直、俺にもよく分からない。

 ただ……。


「……陵華の試合を見てたら、居ても立っても居られなかったんだ」


「なるほど……つまり刹那的な衝動という訳ね。よく分かったよ」


 ……なんか馬鹿にされてるような気がしなくもないが……まあ、そういうことだ。


「それで? 万が一勝ったらどうするんだい?」


「どうするって?」


「だから……朱水院さんと付き合うのかってことだよ。元々そういう話だろ?」


 ……。

 ……ん?


 俺の反応に、小森は大きなため息を吐いていた。


「……まさかとは思うけど、全く考えてなかったのかい?」


「うるせーよ……俺はただ、陵華と戦いたかっただけで……」


「あー、分かったよ、はいはい。ちなみに高宮……バスケは得意なのかい?」


「いや、別に……得意ってわけじゃないが……」


「はぁ? だったら自分の得意な競技を指定すれば良かったろ?」


「それは……フェアじゃないだろ」


「この学校に……その『フェアじゃない』勝負を挑んで朱水院さんに叩きのめされた男子が、一体何人いると思ってるんですかねえ……」


「……とにかく、これは俺が決めた勝負だ。だから……これ以上、小森は口を出すな」


「はあ……分かったよ」


 これは俺と陵華の勝負だ。

 戦ってみれば……俺の中に燻っているものの正体が、きっと分かるはずだから――。


◇◇◇


 ……なんだったんだ、さっきの男子は。

 一方的に宣戦布告するなり……名前も言わずにさっさと行ってしまった。

 お陰で、結局あいつが何者なのかも分からずじまいだ。


「明日の同じ時間、また体育館でかぁ……陵華、この勝負受けるの?」


 瑞季がそう聞いてくる。

 私は、渋々だが頷く。


「元々受ける以外の選択肢はないわ。今まで私から勝負を断ったことはないから……もはやプライドの問題だけど」


「フリースロー対決って言ってたね。流石に陵華に分があるんじゃない?」


 瑞季の言う通りだ。

 あの男子が何を考えてフリースロー対決を選んだのかは知らないが……私はフリースローを外したことがない。つまり……私がシュートを決め続ければ、あの男子には勝ち目自体が存在しないということになる。

 

「まぁ……あっちが選んだんだからきっと文句はないわよ。私はさっさと片付けるだけ」


「……私、あの男子がちょっと不憫に思えてきたかも……」


 そんなこと言われたって、別に私が悪い訳でもないのだが……。


 とにかく、明日だ。

 あの男子が私に挑んでくるのなら……私はそれに全力で応じるだけだ――。


◇◇◇


 ――そして当日の放課後。

 私は再び、体育館を訪れていた。

 バスケットゴールを目の前にして、私は対戦相手と向かい合う。

 

 種目はフリースロー対決だ。

 つまり――このゴールネットにより多くのボールを入れられた方の勝ち。


 そして、私たちに挟まれるようにして、瑞季がそこに立っていた。

 瑞季に審判係を頼んでいたのだ。


「……それじゃあ、今回のルールを説明するよ。シュートを5本ずつ打って、たくさんゴールを決めた方の勝ち。5本が終わった時点でゴール数が同じ場合は、そこから交互にシュートを打って、差がついたらゴール数の多いほうが勝ち。分かった?」


「ああ、OKだ」


 と、対戦相手の男子。

 私も、こくりと頷く。


『――キャー!! 陵華様、頑張ってください!!』


『――そんな男なんてボコボコにしてください! 陵華様ぁ!!』


 昨日と同じように、次第に野次馬が集まり始めていた。

 ……当然だ。

 あんな風に沢山の人間が見守っているなかで宣戦布告すれば……こうなるに決まっている。

 

 もっとも、男子にとっては完全にアウェーな状況になっているはずなのに……当の本人は、それをまったく気にしていないようだった。


 男子は、私を真っ直ぐと見据えながら、呟く。


「さあ……勝負だ、陵華――」 

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