#21『勝利』

 試合終了を告げる笛の音が鳴り響き、私たちの勝利が確定する。

 その瞬間、体育館は大きなどよめきに包まれる。


『おいマジか……スポ薦組に勝っちまったぞ……しかも大差で』


『これって何年振り……?』


 素直に歓喜している者と、困惑している者……半々といったところか。だが当然だ。私たちの方が強いということになれば……スポーツ推薦の意味が揺らぎかねないのだから。


 そして……驚きを隠せていないのは、どうやら身内のほうもだった。


「はは……本当に勝っちゃったよ……」


 六花は大粒の汗を流しながら、信じられないといった様子で呟く。

 私は六花に笑顔で話しかけた。


「言ったでしょ? 大船に乗ったつもりでいるといいって」


「……そっか。そうだったね」


「それに、六花の動きも良かったよ。六花が居なかったら、きっと勝てなかった」


 もちろんそれ以外にも要因はある。

 まずスポーツ推薦側は動きがなっていなかった。まるで連携が取れていなかったのだ。それはきっと、あちら側のチームが、まだお互い顔を合わせて数日しか経っていなかったというのもあるのだろう。

 それに比べ、こっちのチームはメンバー同士の連携が取れていた。だから動きに天と地の差が生まれたのだろう。


 だがそれ以上に……六花だ。

 六花の個としてのスキルが抜きん出ていた。それこそ、スポーツ推薦組と比べても引けを取らないくらいに。

 きっと私の知らないあいだに、沢山の努力をしてきたのだろう。

 だから……この勝利は、六花の努力の賜物だ。


「よく頑張ったね、六花」


 私がそう言うと、六花は勝利を噛み締めるように、呟いた。


「ありがとう……陵華」


 その時の六花の表情は、大きな喜びに満ちていたのだった。


◇◇◇


 スポーツ推薦組とは健闘を讃え合い、今回の試合はお開きとなった。

 相手チームとの別れ際、あちらの司令塔を務めていた女子が、私に声を掛けてきた。


「……今回は完敗だったわ、朱水院さん。今回の試合で、私たちがまだまだなんだってこと、よく分かった」


「それは……良かったわ」


「今度戦う時は……負けないから」


「それはそれは……どうぞお手柔らかに」


 私は別にバスケ部ではないのだがな。

 果たして、私が彼女と再び戦うことなどあるのだろうか?

 そう思ったが……今ここで指摘するのも野暮だろう。


「――こぉーらぁー! お前らぁー! 練習の邪魔だ、さっさと出て行け!」


 どこからか騒ぎを聞きつけたバスケ部の顧問が現れて、観戦していた野次馬たちを怒鳴りつける。それによってこの場に残る熱気も、少しずつ冷め始めていた。

 蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく生徒たち。

 

 ……というか考えてみれば私も部外者のひとりだな。いつまでもここにいて顧問の小言を貰うのも面倒だ。さっさとお暇するとしよう。


「それじゃ、私も行くね」


 帰り際、六花に声を掛ける。


「うん! お疲れ! また何かあればお願いね?」


「はは……考えておくよ」


 出来ればその『また』は、永遠に来ないことを願うが。


 そして他のメンバーにも声を掛けつつ、出口へと急ぐ。

 その途中で……私は瑞季の姿を見つけていた。


「おーい、瑞季!」


「あ、陵華!」


「……瑞季も見に来てくれてたんだ?」


「うん! 陵華のシュートカッコよかったよ!」


「そう? 私、邪魔が入らなかったら100パーセントシュートを決める自信があるから」


「へぇー、すごいんだねぇ」


 瑞季……さては凄さが分かってないな。

 まあ、瑞季は運動が得意じゃないのは昔からだし、今に始まった事ではないが。

 

 そのまま瑞季と会話をしながら体育館を出ようとする。


 ――だが、そんな私を、


「――――……陵華あぁっ!!」


 呼び止める声があった。


 ……なんだ?


 振り返って声の方向を確認すると……男子がひとり、そこに立っていた。


 誰だ……?

 知らない顔だ。

 そもそもこの学校に、私を名前呼びする男子なんて存在しないはずだが……。

 だが、この顔……どこかで……。


 あまりに大きな叫び声だったので、野次馬たちの注目も一気に彼に集まる。

 

 そして周りの注目が集中する中で、彼は私に――こう言ったのだった。


「陵華……俺と――勝負しろ!!」

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