#20『試合』

「――スポ薦組なんかには負けないから! 絶対勝つよ! ファイト!」


『オォー!!』


 私はバスケ部内部進学組のみんなと円陣を組んで、六花の掛け声に合わせて声を上げる。

 確かに、ただの練習試合と片付けるには、立花を始めとした全員の士気が高かった。

 どうやら、負けられない戦いだという六花の話は本当らしい。

 ……いや、別に疑っていた訳ではないが。


「陵華」


 六花が私に声を掛けてくる。


「今日は頼りにしてるからね……陵華のこと」


「大丈夫。今まで私が頼りにならなかったことある?」


「ふふ、確かにないかも」


「負けず嫌いなのよ、私。六花も知ってるでしょ?」


 私は挑まれた勝負には絶対に勝つ。今までそうやって生きてきた。そしてそれは……今回みたいな助っ人での参加の時でも同じだ。

 もちろんこの融通の効かない性格のせいで校内で悪目立ちしていることも分かっている。

 だがそれでも……それだけは絶対に譲れなかった。


「大船に乗ったつもりでいるといいよ」


「……ほんと、頼もしいなあ、陵華は」


「さ、始まるよ。位置について」


「うん……よーし! 気合い入れていくぞぉー!!」


 六花はいつも以上に高いテンションで自分のポジションへと向かった。


 やがて審判役の生徒が現れる。

 審判役はどうやら上級生らしかった。おそらくバスケ部の先輩だろう。

 なぜか私に鋭い視線を送ってきている。

 バスケ部でもない部外者の私がこの試合に参加していることにあまり良い感情を抱いていないのだろうか。あるいは、彼女自身がスポーツ推薦組なのかもしれない。

 まあ、私が参加することに関しては六花が事前に許可を取っているはずだから、文句を言われる筋合いはないのだが。

 

 審判に促され、こちら側とスポーツ推薦側から1人ずつ選手がセンターサークルに立つ。

 そして試合開始の合図として審判の手から高く放られたボールと共に、両選手がジャンプした。

 ボールはこちら側の選手の指先に擦り、自陣のほうに転がってくる。


「陵華っ――!」


 六花の叫びに応えるように、私はいち早くボールを確保する。

 そして当然、そのボールを奪わんと相手の選手が向かってくる。


 ――無駄のない動きだ。確かに、スポーツ推薦で入学するだけのことはあるのかもしれない。

 だが――。


「甘い……!」


「なっ……!!」


 私はそれよりもさらに素早い動きで、相手選手の動きを躱し、隙を作る。


「くそっ……!」


「狼狽えないで! まだその距離からはシュートは打てない! 冷静に対処して――」


 他選手から檄が飛ぶ。

 確かに、ここからじゃまだゴールには少し遠い。普通の選手なら、シュートは届かないだろう。だが……それは普通の選手ならの話だ。

 それに、六花たちが立ち回りやすくなるためには……私がここで決める必要がある。


 私はその場で、シュートの体勢に入った。


「ウソでしょ……!?」


 ……残念ながら、嘘じゃない。

 私はそのまま、全身のバネを使いゴールに向かってシュートを放つ。


 そのシュートはコートの上空で大きな弧を描き――吸い込まれるようにゴールに収まっていた。

 その瞬間、体育館内に歓声が生まれる。


「よっしゃあ!! いきなりスリーポイント! よくやった陵華! 私たち勝てるよ、この試合!」


 私のシュートによって、チーム内の士気がさらに高まったようだった。


『――キャー!! 陵華様ー!!』


 さらには外の観客側からも熱のこもった声援が聞こえてくる。


 実は私には、ファンクラブのようなものが存在している。

 いや、私は認めている訳では無いのだが……とにかく私は、女子にも熱狂的なファンがいるのだ。

 別に害はないので、普段は放っておいているのだが……こうも目立たれると恥ずかしいので少しは自重して欲しかった。


「く……だけどまだシュート1本だけだ! 取り返せる! 朱水院を徹底的にマークして!」


 相手側のチームは、2人がかりで徹底マークを始める。

 お陰で私は身動きが取れなくなってしまう。


 だが……それは愚策でしかない。


「――陵華だけじゃないよ!!」


 私に気を取られた相手選手の脇を縫うようにして上がってきた六花が、ボールを掠め取る。


「あっ……!」


「もらったッ!」


 ボールを奪った六花は、そのままガラ空きの相手ゴールに向かって、レイアップシュートを放つ。

 六花の手を離れたボールは、滑らかな軌道でゴールネットを揺らしていた。


 シュートが決まった六花は、満面の笑みでピースサインする。


「ぶいっ!!」


 六花の活躍によって、試合の流れは完全に私たちのチームに向いていた。


「まだだ! 試合始まったばかりじゃない! 今度こそ取り返す!」


 相手側のポイントガードがそう息巻くも……それ以降、風向きが変わることはなかった。

 

 六花が速攻を仕掛け、私から注意が離れた隙をついて、確実にシュートを決める。

 最後まで自分たちのペースを取り戻すことができないスポーツ推薦側は、私たちの連携に終始翻弄され続けていた。


 そして――。

 やがて試合終了を告げる笛が鳴る。


 結果は――26-67。


 ――気付けば、私たちは……圧倒的な点差で試合に勝利していたのだった。

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