#17『告白』
高等部の教室は、中等部までの教室の雰囲気とさほど変わらなかった。
まあ、半分以上がエスカレーター組だから当然なのかもしれない。実際、瑞季以外にも見知った顔がちらほらいる。
「いよいよ高校生だねー」
隣にいた瑞季が、感慨深そうに呟く。
「高校生って言っても、何も変わらないでしょ? 通ってる学校も一緒だし、生徒も半分以上は一緒だし」
「そうだけど! そういうのは、心の持ちようじゃない?」
「心の持ちよう、ねぇ……」
……私の心は、高校生になったことで、何か変わるんだろうか。
分からない。
が、少なくとも、私がやるべきことは決まっている。
それは……平穏な生活を送るために、全力を捧げるということだ。
今日は入学初日ということで当然授業はなく、連絡事項の共有や自己紹介をしてお開きとなった。
平穏を望む私は、特に奇抜なことをせず無難に自己紹介を終えたはずだった。だが、既に妙な注目を集めていた。
……もう高等組にも私のことが広まってるのか。
高等組というのは、高等部からこの学校に入学した者たちの俗称はである。この学校では、入学した時期によって、初等組、中等組、高等組と呼び名が別れていた。
私や瑞季が初等組、六花が中等組。
人数的には、初等組が1番多く、中等組と高等組は半々といったところだ。
初めて見る生徒が何人かチラチラと私のことを見ていたから……おそらく高等組にも私の名が広まりつつあるのだろう。
これは……あまり良い傾向ではないな。
平穏な生活を手に入れるために、しばらくは……少なくとも入学式のほとぼりが冷めるまでは、おとなしくしているのが得策だろう。
そう思っていたのだが……。
初日の長いホームルームが終わって、自由時間。私は一緒に帰るために瑞季に声を掛けようとしたのだが……その直前に、私を呼ぶ声があった。
「ねえ、珠水院さん、なんか他のクラスの人が呼んでるよー?」
それは、クラスの女子だった。教室出口の前で、私を手招きしている。
それで私には何となく、何の用かが分かってしまった。
瑞季にも察しがついたようで、面白そうに言った。
「高等部になった途端に早速来たか。チャレンジャーだねー。高等組かな?」
「知らない。面倒だからさっさと終わらせてくる」
「うん、頑張ってねー」
瑞季の気のない声援を背に、私は呼んでいるというその生徒の元へと向かう。
教室の外で待っていたのは……案の定というか、男子だった。
私と同じ1年のようだが……見たことのない顔だ。水木の予想通り、高等組だろう。
私は視線を忙しなく泳がせている男子生徒に向かって、言った。
「呼んだのって、あなた? 私に何の用かしら?」
すると、男子生徒はあまりにも挙動不審な動きでこう叫んだ。
「おお、俺と……付き合ってくれ……!!」
……やっぱりか。
なんとなく、予想はついていたが。
私には、度々こうやって告白しにくるやつがいる。
私なんかのどこが良いのかとも思うが……にしたって、入学初日は流石に気がはやり過ぎだろう。
私はこういう時……相手にいつも決まった言葉を投げかける。
「悪いけど、私……誰かと付き合う気なんてないから――」
「――強い男が好きっていうのは、本当か?」
「……!」
こいつ……。
もうそこまで話が出回っているのか……。
「……だったら、何?」
「決まってるだろ……! 俺と勝負しろ……!」
……まあ、そうなるよな。
本当は告白を聞いた時点でこうなる気はしていた。
「はぁ……」
正直、ひたすら面倒でしかないが……元はといえば、私が言い出したことなのだ。その責任は取るべきだろう。
私は観念して言った。
「分かった。その勝負受けて立つわ。競技は何? ここだと人が多すぎるから、移動しましょうか――」
……まったく。
私の望む『平穏な生活』は、どうやらまだまだ遠いところにあるらしい――。
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