第八話:宇宙猫と侵略者②


「とりあえず……やります? 見てるだけじゃ大変でしょ?」


「へえ。なんかCMとかでチラッと見たことあるわね」


 ある有名なゲーム会社のキャラクターがメインのパーティーゲームだ。

 リオは興味深そうな顔をしている。

 キャラクターは知っているがゲームはやったことはない、という顔だ。


 まあ、想像通りではある。


 どうせ出て行きそうにないし、かといって追い出そうとしたらまず間違いなく紫苑は向こうの味方に回るだろうことは簡単に予想が付くので、色々と諦めた弌華はならば一緒に遊んでしまおう切り替えることにしたのだ。


「やってみます? 対戦とか出来ますよ?」


「へえ……まあ、私は興味ないけど」


 チラチラ。

 興味無さそうに手元の端末を弄りつつも、視線が動いていることに弌華も紫苑も気付いていたが敢えて突っ込まない。


 それは不作法なのだ。


「ま、まあ? どうしてもというのなら――」


 そういってコントローラーの一つに手を伸ばすリオを見ながら俺は呟いた。



「俺って摂待プレイとか苦手なんですけど大丈夫ですか?」


「はっ! 誰にものを言っているのかしら。こんなゲーム如き、私の手に掛かれば……手加減なんてしたら怒るからね?」


「り、リオ様……っ!」




 十分後。


「ま、まあ? やるじゃない。まあ、こっちもルールとか操作方法も慣れてきたから。私ってやってる最中に学んでいくタイプだから」


 二十分後。


「今のは良いところいったんじゃない? 慣れてくれば所詮その程度よね。たかがゲームで――あっ、ちょっ!?」


 三十分後。


「さ、さーて? そろそろ本気出しちゃおうかなー。腕も温まって来たし、そろそろ調子も――」


 一時間後。


「……………………」



 ついに押し黙ってしまったリオ。

 彼女の腕が悪いわけではないが、このゲーム裏要素というか裏技に近いものが多く、知識量でだいぶ難易度が変わるゲームでもあった。

 大人げなく裏技に近い手段まで取ってリオを叩きのめし続けた弌華。


 その結果、リオは軽く涙目となった。

 生来のプライドの高さ故か敗北を口に出来ず、「うー」と唸りながらテレビ画面を睨むお嬢様の姿は弌華の胸を熱くしてくれた。


 クズである。


 ちなみにどれだけ順応しようが、知識量で負けてしまっている以上負けるのは必須であるというのを知っていた紫苑。

 リオが負けるのがわかっていて特にアドバイスをしなかった紫苑は、彼女のちょっと涙目になりながらの悔しげな顔を堪能しながらハアハアしていた。


 まごうこと無くクズである。


「……もう一回」


「いや、もう日も暮れてきましたし変える準備をね?」


「蓬莱院グループ総裁の一人娘が一勝も出来ずに引くなんて出来ないわ! いいから次の試合を始めなさい!」


 完全にムキになっているリオ。

 本来であれば適当に力を抜いて勝たせてやるべきなのだが、妙な所で感がいいのでそれも難しい。

 故に弌華は最終手段を使うことにした。



 用意するのはアーケードコントローラー。

 所謂、ゲーセンの箱体で使われるようなボタンとレバーでゲームが出来る、特殊なコントローラーの総称。


 それを用意することで弌華はこの家で最強のゲーマーを召喚する。



「…………どういうこと?」


 ひくひくと口元を動かしながら怒気を抑えながら尋ねるリオに弌華は答えた。


「そろそろ、晩御飯の用意をしないといけないし。相手は頼んだぞ、エーヴィ」


『了解』


 エイブラハムは静かに肉球をレバーに押してて、にゃんと一声鳴いた。

 その様子に色々と限界だったのかリオは叫んだ。



「猫に負けるわけないでしょうがっ!!!」



 十数分後。

 そこには両手両膝をフローリングの床につけ、絶望する少女の姿があった。



「おいたわしやリオ様……」


「つ、次は負けないんだから」



 相当にショックだったのか変える段階になってもフラフラとした様子で去っていくリオの姿に、弌華も流石にやり過ぎたかなと思惑もなかったが……。


(来るなとは言わないけど、これで少しは頻度を抑えてくれればな)



 なお、次の日の朝。





「リベンジよ! 今日こそは雪辱を晴らす!!」


「………………」


 思った以上にお嬢様は負けず嫌いだった模様だった。



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