第九話:宇宙猫と外出①


「それで……失敗した、と?」


「ええ」


「全くあれだけお膳立てして、しかも捕まえておいて逃がすなどと」


「所詮は金で雇ったやつらです。成功すれば儲けもの程度の存在でした」


「まあ、そうだな。途中まで上手くいっていた分、惜しくは感じてしまったが元々の予定通りだと思えば……。その後の処理の方はどうだ?」


「はい、順調に進んでいるかと」


「ご苦労。なら、奴らにも価値があったということだ。それで? 失敗した原因についてだが、何者かの襲撃を受けたという話だが。やはり向こうにも?」


「ええ、恐らくは。彼らの証言にはいささか不審な点が多い。まあ、失態をおかしている手前、隠そうとしているのもあるのでしょうが。そう言った面を除いても不可解な現象が起きていたのは間違いないかと」


「彼女は――という話だったな?」


「そのように申告したようです。無論、それでは彼らの証言と食い違うわけですが」


「隠している、と見なすべきだろうな。やはり、あの男の隠し玉か。それを確認できただけでもマシだと思うべきか」



                   ◆



「プールに行くわよ」



 最近、もはや当たり前のように居座るようになってきたお嬢様の言葉に部屋の空気がピりついた気がした。


「いくら夏休みだからと言ってもずっとダラダラ部屋の中ってのもねぇ? 私も確かにインドアな方だけど、それだけじゃ……ちょっとね。どこかに行きたいって思うのは当然だと思うのよ」


 涼やかで澄んだリオの声が妙に響く。

 弌華は何とかその声を無視しようとするも、



「じゃあ、何処に行きたいかって言われるとどうせなら夏っぽいって思うわけよ。そうなるとやっぱり海とかプールとか一度は行っておきたいわよね。そうなると必要になってくるものがあるわよね……そう――水着よ」



 出て来た単語に否応なく意識が割かれていくのを感じた。


「去年も海に行ったけど当然去年の水着なんて着れないわよねー。そもそも去年の水着をまた着るなんて女の子としてどうかと思うし、それ以前にまあ物理的な問題として……色々とし、しているわけだし? そういう意味でも無理よね」


 妙に強調された言葉が耳に届く。

 これはマズいとわかっているのだが今の弌華にはそれを防ぐ手段がなかった。


「だから今度買わないとね。どんな水着がいいかしら、あまり肌を出すのは苦手でね。去年は青色のセパレートの水着で下の方はパレオしてたんだけど……そうねぇ」


(罠だ! 聞いてはいけない……っ!)


 思わず浮かんでしまうリオの水着姿の妄想。

 どんな水着を着ていたのだろうか、とつい思考が流れそうになるのを必死で弌華は抑え込んだ。


「――今年はちょっと大胆にビキニとか着てみようかなー、なんて」


 グキリッという感覚が弌華の指に走った。

 指が滑ってしまったのだ。


「……それで最初の話に戻るんだけど、プールに行きたいわけなのよ。新しい水着を着て気持ちよく泳ぎたい。そんな気分なの」


 すぐさま立て直そうとリカバリーをはかるも、まるで囁くように潜めたリオの声。

 だが、その声に囚われたかのように弌華の意識は集中してしまい、目の前の画面へと意識が出来ず結果的に対処が遅れしまう。



「一緒に――プール、行ってくれる?」


「喜んでぇ!!! って、ああぁあああああっ!!」



 リオの言葉に思わず答え、完全に画面への集中が途切れた瞬間――HPバーの残りが全て削られて、勝敗は決まってしまった。



「よっしゃ、勝ったぁーーー!!」



 ちょっとした悪戯気分でやらせ忖度なしで勝ちまくってしまった結果、負けず嫌いのリオは今までやって来なかった対戦テレビゲームという娯楽にドはまり、勝つためなら盤外戦術まで実行するにほどまでに彼女は成長した、してしまったというべきだ。

 いや、そもそもこれを成長と呼ぶのかも疑義が残る案件ではあるが。


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