第七話:宇宙猫と尋問②


「ねえ、シェフは来ないの?」


「そりゃ、来ないです。ただのファミレスですし」


「肉の質が悪いわね。というかシャトーブリアンの気分だったんですけど」


「こんなチェーン店じゃ、それは無理というものですよお嬢様」


「はぁ……っ! 食べる姿もお美しいィ、アホの弌華とは所作から違う」


「おい、なんで急に殴ってきた?」


「……ねえ、この子なんだけど」


「ああ、うん。蓬莱院さんの厄介ファンだと思ってくれれば」


「厄介ファン……」


「なんで「厄介」を付けたんだコラ」


「本質を表してるからだコラ」


「これまでもそれなりに色んな人間関係を築いたことはあったけど、ファンはちょっと初めてかもしれないわね」


 などと言いながらリオはフィレステーキを一口食べた。

 弌華と紫苑からすると冷静に考えてこんなチェーン店のファミレスの料理など、蓬莱院グループのお嬢様の口に合うのかと疑問に思ったがそれなりに満足しているようで何よりだった。

 曰く、「チープな味で物珍しい」らしい。


「ん……。まぁまぁっていったところね」


「わりとガッツリ食べるね、お嬢様」


「お嬢様ってのやめて。まぁ、あんなことがあったわけだし気分を切り替えるにもね。むしろ、そっちこそわりとぜーぜー言ってたのに豚骨ラーメンなんて濃いもの食べて大丈夫?」


「エネルギー補給、エネルギー補給をしないと……あれだけ自転車で疾走したのは初めてだったなぁ。足もパンパン、これ絶対明日になったら来るやつだ」


「リオ様を助け出した後、一気に足に来てプルプルで笑う」


「誰かさんが重いから……」


「重くねぇよ!」


「あっ、お前……っ! 俺の大事に取っておいたチャーシューを!? このっ!」


「あー! ボクのオムライスー!!」


 テーブルマナーもなく年相応と言うべきなのか、バカな学生そのものと言った様子でギャーギャー騒ぎながら食事をする弌華と紫苑を見てリオは軽く嘆息した。



「仲いいわね、二人共」


「「いや、仲良くないです」」



 完全にハモった二人の声にリオはくすりっと笑うと視線を下へと向けた。

 そこにはテーブルの下で隠れるようにして地面に置かれたアツアツの鉄板上のガーリックステーキを食べるエイブラハムの姿があった。


「……これ、大丈夫なの?」


 ペット同伴可の店であることは入り口に書かれていたのでリオも知っている。

 一緒にペットとも食事を楽しめるためにペットフードも注文することが出来るようだが、エイブラハムが食べているのは思い切り人間用のガーリックステーキである。


 ガーリックの効いた香ばしいの匂いのする熱々のステーキ。

 付け合わせのニンジンと玉ねぎもとても美味しそうだ。


(いや、私もペットの事は詳しくないけど猫に玉ねぎって駄目だったんじゃ……というか猫舌とは一体)


『美味。なるほど、ガーリックの香ばしさが肉の味を引き立てて……うまうま』


 などと言っていることなど露とも知らないリオにとってはどう突っ込んでいいのかわからない光景であった。

 弌華にしろ、紫苑にしろ、まるで当然のようにしているため言い出すことが出来なかったのだが……。


「エーくんが食いたいって言ったんだから大丈夫だと思います」


「エーヴィは何でも食う子なんで」


「……そうなんだ」


 平然と答えた二人にリオとしても何も言えない。

 食べさせていることについて間違っていると言えるほどの知識もないため、そういうものなのかとしか思えない。



『至福。この星の原住生命体の食事という行為への関心――我は高く評価する。コーラを頼む』


「あいよー」


「えっと……なんで急にコーラを皿に注いで下に?」


「ああ、エーヴィが飲みたいって」


「猫がコーラを!? いや、確かに飲んではいるけど……いいのかしら」


『美味。しゅわしゅわ』


「っていうか、「にゃあ」としか言ってないわよね」


「ぐふぁっ!!」


「なんで急に吐血をしたの!?」


「推しの蓬莱院さんの急の「にゃあ」に心臓が持たなかったんだろう……可哀想に」


「えっ、なに。私が悪い感じなの!?」


『要求。お代わり』


「もう飲んだのか……早くない?」


『主張。我、今回頑張った。最後もナイフを取り出した犯人を飛び掛かって怯ませた功績』


「はいはい。確かに助かりましたよ。あっ、コーラ無いや。ドリンクバーまで行くのめんどくさいし、紫苑のメロンソーダでいいか? 死んでるし」


『許容』


「フリーダムね」



 わりと当然のように喋っているエイブラハムと弌華。

 それ自体は単にペットに話しかける飼い主も多いので不自然さ自体は無いのだが、まさか本当に意思疎通が出来ているとは思わないリオはあまりのツーカー具合に困惑を隠しきれないようだ。


 その様子を見て弌華は案外堂々としていれば何とかなるものだなと思った。


「まあ、いいわ。そういえばちゃんと聞いてなかったわね、貴方たち名前は?」


「えっ。ああ、そうか。俺は如月弌華。彼女募集中のどこにでもいる普通の男子高校生。何なら立候補してくれてもいいですよ?」


「身の程を知るべきね」


「おっと最近聞いた言葉だな? 魔の手から救い出すというヒロイックムーヴをしたというのにフラグは立たなかったか。それでこっちの限界オタクは有栖川紫苑ね」


「ぐぅ……」


 未だにダメージから抜け出せないのか紫苑は抗議のうめき声のみをあげた。


「そう、じゃあ如月くんと有栖川さんと呼ばせて貰うわね」


「ボクのことは「紫苑」とお呼びください! もしくは犬とでも!」


「うわぁっ!? 急に元気になるな」


「よろしくね、有栖川さん」


「ああ……スルーされての距離を感じる呼ばれ方っ! でも、ボクという存在を認識してくれて呼ばれたぁ……好き」


「何でもいいのかコイツ」


『美味。うまうま』


「それよりも、よ。二人とも後でウチに来なさいな」


「えっ、なんで?」


「お呼ばれ出すかー?! いいんですか、そんな。リオ様とこうして会えるだけでも――もがもが」


「待て、お前が感情のままに話すと進まない。とりあえず、黙ってろ」


 突然の言葉にまたしてもテンションを急上昇をさせる紫苑の口を、弌華は物理的に手で塞いで続きを促した。


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