第22話 大団円

「あの人って?」

と問うあしこちゃん。

 この問への答えは一つしかない。

「最長老です」

 ん、と彼女は首を傾げて考え始めた。

 僕もニコニコしながら必死で考えている。

 今、僕らは、まったく何もないところから、プランを共同作業でひねくり出そうとしているのだ。

「なるほど――そういうことか」

 彼女は何かの考えに思い至ったようだ。

 はたして、何を思いついてくれたのだろうか。できる事ならこの難問を簡単に突破し得るプランであってほしかった。

「トップが出てきてよくないと言う事は、他の幹部、ナンバー2か3あたりに会う事を想定していた、というわけね」

 さすが、ベルリアル。

 すぐに閃いてくれたようである。

 しかも、その方向なら、実際に舞台に上げればあらは見えるが、この場面でならば上出来な形に至るかもしれない予感までしてきた。

 しかし、油断は禁物だ。

 僕はあくまで無責任にまるで正解を匂わすような言葉を続ける。

「うまく行く可能性は低いですけどね」

「かなり低いわね。でも、可能性がないわけではない」

 彼女はここでようやくにやりと笑ってくれた。

「私たちのような人もいるわけだしね」

 そのとおり。

「向こうの穏健派を抱きこんで解決するつもりだったのね?」

 そんな自信満々な、正解を完全に確信した口調で言われてしまうとちょっぴり意地悪してしまいたくなる。

「それもあるんですけど」

と僕はあえてそれを正解としなかった。

 肩透かしをくらって眉間に皺を寄せるあしこちゃんもなかなかにかわいい。

「違うの?」

「違うくないです! それもあるんです! それもあるんですけどもう少しだけ確実な手があると考えたんです」

 あしこちゃんは再び考える。

 何気なく窓から外を眺めると、だいぶ日が傾いてしまっている。

 そろそろ、昇降口の鍵が閉まってしまう時間だ。

 もし閉められてしまっても職員の通用口を使わせてもらえるが、居残りの教員にちょっぴり小言を言われるのが実に面倒くさい。

 できる事なら素直に玄関から出たいものだ。

「じゃあ――やっぱりナンバー2って事になるわね」

 僕はうなずいて歩き出す。

 いい加減、時間を掛けすぎてしまった。

「最長老は決定を下した立場です。とすれば抱き込む余地はないわけですから」

「そこでナンバー2を抱き込むというわけ?」

「ナンバー2じゃなくてもいわゆる反体制側、さらに言えば、下克上を狙っていたらなおよし、ですね」

 くすりと彼女は笑う。

「ジャバヲックらしいお答えね」

 そう言われると、何だか本当にそんな気がしてきてしまう。

「結局は欲望につけ込むわけなのね」

「そう言うと聞こえは悪いですけど」

 僕は慌ててフォローに回る。

「まあ、内紛でもしていただいて、穏健な方が力を持ってくれるのがいいかなと」

 両部族的にもね、と僕はありとあらゆるフォローを彼女に送る。

 いや、本当の所、フォローしている相手は僕自身、なんて事は百も承知だ。

 ともあれ、

「敵の勢力を見極めた後、その分断をはかり、友好的な方に加勢して最小限の被害でこの争いを治めるつもりでいた」

という稚拙かつ安直な理屈ではあったものの、どうやら彼女が納得できるような絵は描けたようだ。

 まったく何よりである。

 このプランの作成に大きくご協力いただいたあしこちゃんに僕は心の中で拍手を送った。

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