第19話 それを人が運命と呼ぶならば

 しかし、僕のアメリカ開拓時代の荒野ばりに荒んだ胸中とは裏腹に、周辺はなかなかの盛り上がりを見せていた。

「運命すらも力でねじ伏せてみせるのか、ジャバヲック‼」

「今我々は恐るべき瞬間に合い見えている‼」

などとやたらな盛り上がりようで、すでに僕の顔には苦笑いが張り付きっぱなしである。

 それはウロボロス先輩も同様のようだ。

 彼にしてみれば、とっとと僕が失敗する事を望んでいたに違いない。

 とはいえ、それはカーマイル会長の思惑とは違っていかに場を盛り上げるかと言う事を現実的に考えれば当たり前の選択なので僕としても責める気はない。

 確かにこんなのはやりすぎであって、超能力者ならまだしも素人による奇跡的な二連続成功は明らかにゲームのぶち壊しである。

 僕としても本意ではないのだが、当のカーマイル会長は真顔である。

 笑ってもいなければ怒ってもいない。

 そんな顔は拝みたくないのだが、もっと顔を向ける事のできない人物がすぐ隣にいる。

 その人物とは言うまでもなく、あしこちゃんである。

 僕が、頭の悪い殺戮提案をして以来、彼女の様子をうかがっていなかったのは偶然などではない。

 どんな顔をしているのか、想像もつかなかったからで、純粋に怖かったのだと言えよう。

 言えよう、などと偉そうにほざくも、実際は首をねじ曲げ、目線は宙を舞わせの、とんだ体たらくを晒し続けていただけである。

 怒っているのか笑っているのか、いや、案外皆さんと同様に盛り上がっていただけているのではないかしら。

 先ほど交わした笑顔は本当に素敵だったなあ、などと僕が考えて少しだけモチベーションを上げていると、

「さあ、ジャバヲック! 三投目だ!」

と誰かにサイコロを手渡された。気軽にそれを受け取って、礼を言おうと顔を見ると、それは満面の笑みをたたえたあしこちゃんであった。

「世界すらねじ伏せてみせよ!!!」

と低い声で彼女は僕に笑顔でそう言った。

 すごい、と僕は思った。

 顔では笑っているのに心はカーマイル会長以上に怒りで煮えたぎっているではないか?

 せっかくのフォロー、意識の共鳴、美しき共通了解が存在したのにも関わらず、眼前のチンパンジーは光の速さで翻意してみせたのだ。

 さらにこともあろうに、その翻意が更なる喜劇を生み出し、その舞台でジャバヲックここにありと高らかに謳い上げている真っ最中であるのだ。

 恐らく、唖然とし、困惑し、理解し、そして憤怒に至ったのであろう。

 それも無理なからぬ事であろうが、人間は怒り狂っていてもわらう事ができる生物なのである。

 感情というもの、そしてそれを生み出す人間と言う存在の素晴らしさに僕は思わず感動してしまった。

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