第18話 無謀な挑戦

 誰も何も言わなかった。

 カーマイル会長の出してきた判定条件は著しく絶望的ではある。

 しかし、成し遂げようとする事の重さからすればギリギリ常軌を逸しているとまでは言い切れないようだ。

 僕はほぼ想定どおりの条件に満足した。

 挑み、乱戦となるならば本望であり、その途上、仮に僕のキャラクターが絶息するような事になったとしても、それはそれで仕方があるまい。

 彼は無責任ではあったが、傍観者ではなかったのだ。

 僕は手を出して黙ってサイコロを受け取る。

 先輩方が息をのむ声が聞こえる。

「やるのか?」

「おいおい、何分の一の確率だ?」

 何分の一だろうと、出さなければ仕方がない。

 カーマイル会長は僕が持つサイコロをにらむ。

 不安に駆られたウロボロス先輩が落ち着きなく僕と会長を交互に見ている。

 そして、僕は皆がいざと構える前にいきなりサイコロを机に放り投げた。

 カンと乾いた音が何度かしてサイコロは机を斜めに突っ切っていく。

 勢いが強く、机から落ちそうになるも何とか縁でピタリと止まる。

 一番上に現れた目は、

「0。抜刀に成功だ」

 ウロボロス先輩が自分の正面のサイコロを見ながら小さな声でそう告げる。

「おお…!」

と誰かが小さく唸った。

「次だ」

 カーマイル会長は一瞬目を閉じてから、そう言った。

 僕はウロボロス先輩からサイコロを受け取るや否やまたも無造作にポンとサイコロを放り出す。

 考えてはいけない。

 感じてもいけない。

 ただ物質を気ままに投げるだけである。

 今度は力弱く数度転がっただけでサイコロは止まった。

「0。飛び掛りにも、成功だよ」

 まじすか、と一番強く思ったのは僕であろう。

 何分の一かは計算する気にもならないが、クリティカルとやらの判定は今までのゲームでも何度か出てきているものの成功したためしなどほとんどなく、つまるところ、この時点で相当の確率を突破したのは間違いない。

 周辺の盛り上がりに反して、僕はちょっと複雑な思いを抱えていた。

 僕は自分が非常に平凡で、運勢的にもそうであると信じて疑わずに生きてきた。

 しかし、このざまはなんであろうか?

 長い人生、運気がバイオリズム的な何かと同期して盛り上がる事も時にはあろうが、それがどうしてまた今日この瞬間なのであろうか?

 それとも、僕は運勢的に強い何かを持って生まれていたのかもしれず、その恩恵を受けずにここまで来てしまったのか?

 ここでまた振って0がピタリと出てしまった日には、僕はこれからの人生を具体的にどのように生きていったらいいのだろうか?

 これがきっかけで人生が狂ってしまったら誰が責任をとってくれるのだろうか?

 僕は自身が無責任である故に他人の責任問題には敏感であるという何とも人間くさい一面を持ち合わせており、幸運の女神などが今目の前に現出したらば、前髪を掴み耳から手を突っ込んで奥歯をガタガタいわせてやりたい気分にかられてしまい、一人でグギギなどと歯噛みするに至った。

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