第16話 早くも迎えた山場
僕らを出迎えたのは、意外な事に魔物の一族の最長老と呼ばれる一番偉いお方であった。
「仇敵にこそ礼を尽くせ」なんて言葉があるのかどうかは知らないが、のちのち第三者から見て文句の出るようなやり方をとるほど頭が回らないわけではないらしい。最善の礼は尽くしたが交渉自体は決裂したのだ、というエクスキューズのためだけに、最長老は我々の前に現れ、どうぞどうぞと交渉を行う一室へと自ら招き入れた。
「話し合いによる解決の道が再び生まれた事を喜ばしく思う」
最長老は席に着くなり我々に向けてそう言った。
まるで冗談にしか見えない笑顔を振りまきながら我々を歓待してみせる。
しかし、僕はまだ話を切り出せないでいた。
カーマイル会長も他の皆さんも僕の言葉を待っている。
えっ、もうですか。もう、そんな局面なのですか。
驚きの声が口から飛び出そうになるが、奥歯をかみ締めて何とかこらえた。軽挙妄動は慎まなければならない。
「どうぞ座りたまえ」
話を進めるべく、カーマイル会長演ずる最長老が着席をうながすが、僕が一向にアクションを起こさないのを見て、眉間に深くシワを寄せる。
皆もどうしたのかと顔を見合わせる。
ウロボロス先輩が見かねて、
「大丈夫か?」
と声をかけてくれるが、僕はまだ動かない。
ぜんぜん大丈夫ではないのだ。
カーマイル会長も、
「ジャバヲック?」
と僕の窮状を不審そうに眺めている。
確かにいずれかの時点で困る事は困るだろうが、まさか交渉のテーブルにつく前に困り終わって進退極まるとは、さすがのカーマイル会長も想定外であったらしい。
ちらと横目であしこちゃんを見やると、目が合ってしまう。
ああ、合ってしまった、と思ったら、僕は小さくうなずいてしまう。
何故か彼女も小さくうなずき返す。
なんでこいつ頷き返してんの、と思うが僕はそれを受けてニコリと笑うと、彼女もニコリと笑い返して、何て僕たちは意味のないやり取りを続けているのかと思ってしまう。
しかし、もはやこれで何らかの意思の疎通は行ってしまったので、アクションを起こさねばならない。
「それでは」
と僕は口を開く。
「最長老に斬りかかります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます