第9話 通う日々

 さて、このような出来事が当初にありつつも僕は足しげくRPG同好会へと通い続けた。

 色々と問題はありそうだが、根本的にやりたい事など一つもない僕にとっては腰を落ち着けてしまいさえすればそこがどこであろうとそんなに変わらない気がした。

 それに、運動部のシゴキや文化部の人間関係のゴタゴタに比べたら珍妙な芝居に巻き込まれるくらいどうと言う事もないだろう。

 さらに、この同好会には、基本的にそういうところになじめなかった人々がつどっているわけで、そこのゆるさもまた僕にとって悪いものではなかった。

 おまけにあしこちゃんまでついてくるとくれば他部にうつつを抜かす暇などない。

 ちなみに、そのあしこちゃんはあのような事件後も相変わらずで僕に対して敵愾心てきがいしんを抱くキャラクターでがんばっていた。

 ただのクラスメートをライバル視するというミッションはどこまで続くのだろうかと注意深く見守っていたのだが、なかなかどうして飽きる事なく続いている。

 さすがはあしこちゃんだ、と僕はその健闘を称えた。

 もっとも、カーマイル会長をはじめとする諸先輩方も、

「そろそろ力のマナの真の称号を懸けた戦いに終止符しゅうしふが打たれるのではあるまいか!?」

などと雑なアドリブで対決をあおりなどするので、彼女のモチベーションは表面に膜が張ったホワイトシチューの温度のごとく下がりにくくなっているのだ。

 こうして見ると、ウロボロス先輩は同好会の存続に危惧きぐを抱いていたものの、これはなかなかに存在意義のある素晴らしいものなのではなかろうかと僕は考えた。

 たとえ小芝居であっても、そこに演じる自分とそれを認める他者がいて、それが時に絶妙な世界の融合を見せ、華麗なアドリブ合戦がまるで台本があるかのように展開する事がある。

 これは簡単に得られるものではない。RPG同好会あってこそのものだろう。

 外から眺めるしかない自分にうらやましい気持ちが芽生えるのも事実だ。

 しかし、もし、自分が参加したそのような小芝居が映像化され、親戚一同を招き孫を抱いて開催された還暦かんれきの祝いの席で披露するようなことが起きたら、その場で5、6度死ねるレベルの羞恥しゅうちを感じるだろう事は間違いない。

 まあ、未来に保険をかけていれば現在手に入らぬものもあろう、とその辺は素直に諦めるようにしてはいるのだ。

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