第7話 運命の握手

 僕は一躍興奮した。

 会話もろくに交わしてもいないのに何かのフラグがいつの間にか成立していて、つまるところあしこちゃんと僕は出会うべくして出会う運命だったのだ、と直ちに血圧を激しく上昇させる。

 彼女は僕に向かって右手を差し出してきて、

「これからよろしくね」

などと言う。

 これはもはや婚約と同等のアレですね、などと僕は鼻息荒く彼女の手をとるとギュッと手が握り締められるので、ああ、すべすべしていて柔らかくて、これだけでもうおなかがいっぱいなのです、などと考えていると、さらにぐうと手が握られる。

 ん?と思う間もなく、さらにぐぐっと力が込められる。

 はかないいとしさを確かめるにしても力が入りすぎていまいか?

 痛みに顔をしかめそうになるのをこらえながらあしこちゃんを見ると、彼女は鬼のような形相で、しかし、口元には確かに笑いを浮かべながらさらに力を込めてくる。

 いよいよたまらなくなり、僕は、

「あの、いた、痛いんですけど……」

と小さな声で言うと、あしこちゃんは、

「ジャバヲックはこの程度か――!?」

と低い声でつぶやいたので僕は背筋がぞひっとしてしまう。

 どうやらあしこちゃんはベルリアルとやらの設定を保持したままここまでやってきたらしい。

 これは大変な事になってしまったと僕は思った。

 いくらなんでも校内廊下でのベルリアルは、目つぶし以上に危険な反則行為である事は言うまでもなく、さらに彼女の目を見れば、僕のジャバヲックとしての答弁を待ち構えているのが見え見えである。

 しかも僕の右手は、えっ、これ僕の手!?と見間違わんばかりに、あしこちゃんの手で握り締められてうっ血してしまっているのだ。

 このままでは健康上大変よろしくないと思った僕だが、かと言ってせっかくあしこちゃんがベルリアルを演じきっているところを無粋に反撃に転じるのにも躊躇ちゅうちょされたが、手がとにかく痛むのでとりあえず手を引っこ抜こうとする。

 しかし、なかなか抜けない。

 ちらりとよしこちゃんの顔をのぞくと、力がこもって顔色を真っ赤にしながらも余裕の笑みを浮かべている。

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