第6話 ウロボロス先輩

 僕が顔を青くして露骨にがっかりしていると、

「さっきはすまないね。妙なものに付き合わせてしまって」

と優しい声をかけてくれる。おやと言う顔をするとウロボロス先輩はにこりと笑って、

「ああいうの、会長が始めたら流行っちゃってね。慣れない人がいるうちは少し自重してくれるといいんだけど」

などとやたら分別ふんべつの利いた事を言う。変な具合になってきたので変な顔をすると、

「でもまあ、君も嫌いじゃないなら付き合ってくれよ。正直うちは弱小でね、新入会員の確保が同好会存続の絶対条件なんだ。会長もみんなもその辺をわかって空気を読んでくれるといいんだけど直接言うのもかどが立つのでね……。そういう事情なんだけど、どうだろう?」

 そう言う事なら、と僕がうなずくと今度は彼が変な顔をする。

「何かしゃべってくれないかな?」

 そうか。

 僕はあまりに閉口し続けたので、ここまで無言を貫いてしまっていた。

「いえ、あの、すみません」

とようやく口を開くと、ウロボロス先輩は、ほっとした顔をした。

「謝ることは、いや、怒ってるのかと思ってさ!」

「いえ、あの、別に怒ってはいないです」

と僕がうへへと愛想笑いを浮かべると、ウロボロス先輩も笑みをこぼす。それだけの事で、僕はウロボロス先輩と深いところで通じ合ったような気になった。

 太り気味な体躯たいくを持ち奇矯ききょうな言動をしていたとは言え、それだけでこちらと会話の成立しない真性であると断定してしまった己の不明を恥じるばかりである。

「まあ、今後ともよろしく頼むよ」

 そう言うとウロボロス先輩は片手をあげて同好会室のほうへと戻っていった。体格の割に軽やかなステップが印象的で、彼の後姿を眺めているうちに緊張がようやくほぐれた気がした。

 僕は晴れやかな気分になり、帰り道はコンビニエンスストアへ道草をして巨峰味のアイスバーでも買い食いしようと心に決めた。

 すると、再びたったたったと背後から誰かが駆け寄る音がした。

 はて?と振り返ると今度そこにいたのは、まさかのあしこちゃんであった。

 はあはあと息があがり頬を上気させて、今度こそ唖然とする僕の目の前で立ち止まり、

「もう行っちゃったかと思った!」

 と言って笑ったのである。

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