第2話 RPG同好会

 RPG同好会は、理科室の向こうにある6畳ほどの同好会室内で主に活動しており、会長と5人ほどの会員で構成されていた。

 会長は顔のサイズに対してやや大振りの眼鏡をかけたやせぎすの男で、部室での初対面時に、

「私はサー・カーマイルきょうだ」

などと自己紹介してきた。

 しかし、彼はどこからどう見ても、カーマイル然としていなく、どちらかと言えば、屋敷やしきさんか富田林とんだばやしさんかという風貌ふうぼうであったので、差し出された右手を前に僕がじんわりと困惑していると、隣にいたひどく太った男が、

「カーマイル卿、いきなりそのように声をかけられては、彼も困惑するのではあるまいかな」

などと言い、それを受けてカーマイル会長は、

「まったく、君の言うとおりだ」

としたり顔でうなずいたりしているのを見て、ひょっとしたらこれは夢なのかもしれない、などと考えていたところ、そのひどく太った男が口を開いた。

「私はウロボロスだ。何と呼んでくれても構わんが、不用意に声はかけないことだ――。」

などと必要以上に伸ばされた前髪越しに視線を飛ばしながら言うので、僕はとりあえず、

「はあ」

と息を吐いて返答に代えさせていただく。

 しかし、この後も出てくる人間出てくる人間全てこの暗号のような通り名を名乗ってくる。しかも、何やら芝居がかった珍妙な節をつけてセリフをしゃべくるので、だいぶ精神に疲労がたまってきてしまった。

 何もかも投げ出して大暴れし一人ずつ戸籍上の本名を身体にでも聞いて暴き立ててから顔面に油性マジックでそれを書き込んでやろうかとも思ったが、しかし人間関係というものにおいて、やはり忍耐というものが肝要であろう。

 いかに異様な世界へいざわれようとも己の正義を押し付けていてはかえって道理も通るまいと思い直し、最終的にはニコニコと話を聞くまで精神的な成長を遂げたのである。

 ようやく彼らの自己紹介が終わり、これでとりあえずの仁義は果たしたと思ってほっとしていると、会長が、

「さて――」

とこちらに向き直り、

「君の自己紹介がまだだったね」

とおっしゃるので、ああ、そうかと立ち上がろうとするとウロボロスに制された。おや、と戸惑うと、

「まずは君の名前だが――」

と会長は言ってからしばし眉間にシワを寄せて、

「ジャバヲックというのはいかがだろうか?」

と問われた。

 ジャバヲック?

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