第4話 1月

正直覚えていない

今思うと今と見た目も性格も

違ったんじゃないかなって思う


あのことは今よりも

なんとなくで生きてた


まさに大人と子供のはざまで

大人になろうって強く思ってた

あの頃は大人になることは

誰かとお付き合いをして

綺麗になることだと思ってた

「大人の女性」とはそういうもので

いろんな経験をして綺麗になっていくことが

大人になる方法だと思っていた


色々な経験は黙っているだけではやってこない

当時は機会を増やそうともがいた

でもしっくりするものは一つもなくて


男の子と初めて二人でご飯に行って

小さなお出かけもしたけど

結局上手くいかなかった


今思うとあの頃の私は

機会とか経験とかじゃなくて

自分の良さを分かってもらえる場にいなかったんだと思う


12月の寒い冬

新しい仕事を始めるために

採用面接に行った

見慣れない駅で見慣れない街で

近いはずなのに家からとてつもなく遠く感じて

すごく寂しかったのを覚えてる

あの時に挨拶をしてくれたのは

多分君だと思うけど

ぼんやりとしていて全く覚えていない

あの日は疲れで電車の中で深い眠りに落ちたのを覚えている

電車の中が妙に蒸し暑くて

目が覚めた時に汗をかいていて

嫌だった


あの日に出会った

自覚はないけどあの日に出会ったんだと思う


初めて話した日も

自己紹介をしたことも覚えていない

でも一つだけ覚えていることがある


1月の極寒の日に雪が降った

雪の降る日でも仕事に行くことが面倒だとは

思わなかった

会社から電話が来て

雪で電車が止まっているから

今日はお休みでいいと

その時に

「なんだ、今日は君に会えないじゃん」と

心の中でつぶやいたことを覚えてる

何故かあの時の寒さと

身につけていた服と

目の前に広がる雪景色と

全て鮮明に覚えている


そう考えると

あの頃からすでに君のことが好きだったのかもしれない

でもただ憧れている君に会うのが楽しみで

それが本当の意味での好きになるとは

思ってもいなかった

いつも君にとっての「いい子」で終わってもいいと思ってた


12月に始めた仕事は

慣れるのに時間はそれほどかからなかった

どちらかと言うと

大変さと難しさよりも

君に会える喜びの方が大きかったのかもしれない

このことは一年君に直接伝えることになる


ただ見ているだけでいいとか

会えるだけで目が合うだけでいいとか

そういうものでもなくて


私は君の真似をして仕事をした

働き方も向き合い方も

何もわからない私は

よく君の真似をして

そうすることでいつのまにか成長することができた

君は私の道標だった











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