最終ゲーム

第48話

次の部屋は、真っ白で何もない部屋だった。

「浩、どういうことよ?」

凛が浩に聞く。

「どうもこうもないさ。俺もプレイヤーなの。お前らとは少ーし違うルールだけどな」

銃は構えたままなので、下手に動くこともできない。

「伊月はそんなに驚いてないよな。もしかして気付いてた?」

「何となくは。確証に変わったのはさっきかな」

「へぇー?やっぱお前はすごいな!」

目を細めて浩は今までと変わらずに話しかけてくる。

「今この状態で褒められてもうれしくないんだけど」

「まぁそう言うなって〜」

海斗も佳奈も、青ざめたまま黙り込んでいる。

「ねぇこんなどーでもいい会話いらないから。俺たちと何がしたいの?」

「殺しあい」

ビクッと凛が反応する。

「何で…?」

「したいからさ。残念だけど、俺にもよく分かんないんだよな。何となく、だよ」

「ルールはあるの?」

「もちろん!」

浩がポケットから、1枚の紙を取り出した。

「ルールは簡単!今から5人で殺しあいをする。俺を殺して生き残れば勝ち。今度こそゲームクリア!ね?簡単でしょ?」

簡単なものか。最悪だよ本当に。5人まではクリアできるんじゃなかったのか?

「ほら、武器構えて。始めるよ?」

伊月は黙って光線銃を手に持つ。それを見て、凛も持った。海斗は刀を、佳奈は短剣を。全員が武器を出したことを確認し、浩は高らかに宣言する。

「それじゃあ、バトルロワイヤル、スタート!」

バトルロワイヤル、ね。浩も間違いなく、躊躇なく人を殺せる奴だ。なぜなら、宣言をしたすぐ後に伊月に向かって発砲したから。目が合った瞬間にこれはヤバいと直感してしゃがんだおかげで何とか生きてるが、ぼやぼやしてたら間違いなく殺されてた。

「お?今の避けるんだ?」

浩の発砲を見て、海斗はすぐさま距離を取る。凛は銃を構えた。しかし佳奈は、

「あ、え…」

と呟くだけでその場に固まっている。それを浩が見逃すはずがなく、次は佳奈に狙いを定めた。浩の銃が佳奈を狙い、指をトリガーにかける。バシュッと音がしたが、佳奈が倒れることはなかった。浩が凛の方を見る。

「躊躇っちゃダメだぜ?威嚇なんて意味ないんだよ。殺さなきゃ意味がない」

言いながら、凛に向かって発砲。凛は右肩を抑えてうめき声をあげた。

「凛は後だから、待っててよ」

伊月と凛の知る人懐っこい笑顔が、今はただひたすらに怖い。

「凛!」

駆け寄って撃たれた肩を見るが、服を貫通し、肌に真っ黒な焦げ跡がついている。

「腕は動かせるか?」

凛は手を握ったり開いたりする。肩を回して小さく頷いた。

「でも、めちゃくちゃ痛い。もう自由には動かせないし、たぶん銃を構えるのもキツい」

「とにかく逃げるぞ」

「でも佳奈が…!」

ちらりと浩と佳奈の方を見るが、すぐに立ち上がる。

「助けられない。射撃に自信があるわけでもないんだ」

凛が悔しそうな顔をする。伊月だって悔しい。そもそも人を殺す覚悟だってできていない。何で殺しあいなんてしなきゃならないんだ。逃げるったってどこに?隠れられる壁があるわけでもないのに。

「やめて、待って…!来ないで、いや!」

後ろから佳奈の叫び声が聞こえてくる。

「振り返っちゃダメだ」

凛に、自分に言い聞かせるように言った。握っている凛の手に、ぎゅ、と力が入る。佳奈の武器は短剣だった。対して浩は刀と光線銃。残念ながら佳奈に勝ち目はないだろう。佳奈の次は?海斗か?凛か?俺か?バトルロワイヤルなんて名ばかりだ。浩が主導権を握っている。浩の独壇場だ。勝つためには?勝つためには…。

「やるしかない…」

俺にできるのか?人殺しだぞ?心の中でそう自分に問いかける。返ってきた答えは無理だ、それだけ。だけど、もう1人の自分がささやく。今さらだろ?

「あぁ、確かに今さらだけど」

そうだ。もうすでに人を殺してる。ならもう。向こうだって殺しにきてるんだから。躊躇してたら殺される。でもどうやって?銃はある。だけど命中させられるか?しかも逃げながらだ。

「いやぁぁぁ!」

ひときわ大きな佳奈の叫び声。そのすぐ後に、どさりと倒れる音。

「次は海斗かな。伊月は最後だよ」

いやいや、初っ端に狙ってきただろうが、と心の中で伊月は叫ぶ。

「海斗は刀なんだよね。じゃあ俺も刀にしようかな」

浩が言う。

「なぁ、何で…!」

「だから言ったじゃん、何でかは自分でもよく分からないんだって」

キン、キン、と刀が打ち合う音が聞こえてくる。伊月は、凛の手を握ったまま倒れた佳奈の元へ走った。

「佳奈…!」

凛が佳奈の顔を覗き込む。しかし佳奈は目を閉じたまま。

「佳奈?ねぇ起きて、起きてよ」

凛が必死にそう呼びかけるが、反応もなかった。そっと喉に手をあててみる。…脈拍が無い。額に、凛の右肩にあるような焦げ跡がついていた。頭を撃ち抜かれたようだった。

「凛」

「でも…!」

「もう分かってるだろ」

「嫌だ」

首を振って凛は否定する。その時点でもう理解はしているのだろう。

「こらこら、そこ、何楽しそうに話てんの」

突如聞こえた浩の声に、思わず凛を突き飛ばしていた。光線が伊月の腕をかする。

「痛ってぇ…」

焼けるような痛み。血は出てないみたいで、止血する必要がないからそのことには少しほっとした。それから、佳奈が持っていた短剣をポケットに突っ込んで走り出す。

「佳奈、借りるぞ」

もう聞こえてないだろうけどそう言った。武器は多い方がいいだろう。走りながら、海斗の方を見た。海斗は血だまりの中に倒れている。腹をざっくり切られているのだろうか。遠目からだとよく見えないが、それでもかなり深い傷であることは分かる。…痛かったんだろうな。あっという間だった。いつの間にか佳奈も海斗も殺されてる。浩は、格闘技か何かをしていたのだろうか?それでなくても人殺しに抵抗がないようなのに、普通に強い。射撃も上手い。真正面から向かっていっても勝てる気がしない。

「凛」

浩が凛の名前を呼んだ。2人の方を見ると、銃を向け合っている。どうしたらいいんだ?俺はただ黙って見てるのか?凛が殺されるところを?

「何よ」

凛が答える。浩は笑った。

「凛に俺は殺せないよ」

言いながら、悠々と歩き出す。

「来ないで」

「凛は普通の人間だもんな」

「止まってよ」

「他人のことを心配するくらい優しいもんな」

「来ないで!」

やっと浩が立ち止まる。凛との距離はあと数歩、といったところで。

「足も手も、震えてるぞ?そんなんじゃあ、まともに当たらない。ほら、しっかり構えて」

「触らないでよ!」

凛の頬を涙が伝う。動かなきゃならない。早く動かなきゃ、凛が殺される。なのに、伊月の足は凍りついたように動かなかった。何で?浩に気圧されてるわけじゃない。自分が殺されることに恐怖しているわけでもない。なのにどうして?

「凛、俺さ、本当はお前も伊月も殺したくはないんだよ。海斗と佳奈はまぁ別にそこまでじゃなかったけど」

「…何を言っているの…?」

「割と楽しかったんだよ、お前らと3人で行動するの。でもルールだからさ、ごめんな」

また、伊月と凛の知る笑顔を見せられる。

「やめて」

もう浩は何も言わなかった。人懐っこい笑顔のまま、刀をふるう。

「い、た…」

凛が血を吐く。凛が泣いてる。それを、伊月はただ呆然と見ていた。

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