第45話

通路を抜けた先には、いくつかの台が並べられていた。カードゲームにボードゲーム、ルービックキューブもある。この中から選べってことか。

「え、えっと、説明…した方がいいですよね?」

「そうしてもらえると助かるわ」

「あの、ここではするゲームを選んでもらって、私と戦ってもらいます。選べるのは1人1つだけです」

「で、ゲームできるのは1回だけと」

少女が頷く。

「そうなの?」

と浩が聞いてきたので、ルールの紙を渡した。

「全員、必ず私と戦ってもらうので、1人が戦っている時は4人には待っていてもらうことになります」

「順番はどう決めるんだ?」

海斗が聞く。

「順番に関してはそちらで決めていただいて結構です。あとゲームも、そちらで」

ゲームの話になると、少女は饒舌になるようだった。

「ゲームの内容は、被ってしまってもいいのかしら?」

凛が聞く。

「それも全然構いません」

少女は1人、並んでいる台の奥へと進み、椅子に座った。

「私は待ってますので、決まったら声をかけてください」

その言葉に、5人で顔を見合わせた。

「どうする?」

佳奈がぼそりと言う。

「どうするって言われても…」

海斗が答えた。

「とりあえず、順番から決めないか?じゃんけんとかで」

「いいんじゃない?」

「勝った人から決めてく?」

「そうしようぜ」

スッと5人して手を出す。

「やったー」

1人勝ちしたのは浩。

「何番目がいいの?」

「んー、3番かな」

「じゃあ、何のゲームするか選んでたら?」

「そーする」

それから、無事に順番が決まる。1番が海斗、2番が佳奈、3番が浩、4番が凛。伊月は最後になった。

「海斗、何のゲームするか決めた?」

「決めたよ」

「じゃあ、始めますか?」

プロ顔負けのシャッフルをしていた少女が海斗に聞く。

「あぁ」

負けても死ぬことはないと知っているからか、ガチガチに緊張しているわけではなさそうだ。

「では、まず何を賭けるか決めましょう。あ、というか、この喋り方疲れるんでやめますね」

「え?」

唐突に少女の口調ががらりと変わる。

「はい、じゃあ決めて?私は、ゲームに負けた方が勝った方の言うことを必ず1つ聞くってことで」

おどおどして目に涙を浮かべていたというのに、今は冷ややかに海斗を見ている。少女の豹変ぶりに海斗が面食らっていた。

「ほら、早く決めてよ。あ、というかもう決まってるか。私に勝ったらゲームクリアね。次の部屋へ通してあげる」

「え、あの、さっきまでの涙は…?」

一瞬、少女はきょとんとしたが、思い出したようにあぁ、とため息をついた。

「別に泣いてるフリをしてた訳じゃないし、怖いは怖いけど、こっちも素だから。泣いてる時の方が良かった?」

「いや、そんなことは…」

「じゃあ始めよう。あと4人も相手しなきゃならないんだから」

ゲームが始まった後に、浩が話しかけてきた。

「なぁ、キャラ変わりすぎじゃね?」

「まぁ確かにそうだけど、俺は今の方がいいと思うよ」

凛も会話に加わってくる。

「そうね。泣かれてるよりは話しやすいと思うわ。何、浩は泣いてる時の方が良かったとか?」

浩がぶんぶんと首を振った。

「ずいぶんとうまく猫を被ってたんだなぁと思ってさ」

それは思った。

「ま、どっちも素なんじゃない?」

ゲームが始まるまではあのビビりの方が出てきて、ゲームが始まってしまえば今のような性格の方が出てくる。いい性格してんな。羨ましい気もする。

「え、すご…」

佳奈がぼそりと呟いていた。

「どうしたの?」

「ちょっと差がありすぎて」

佳奈が指差した先には、海斗が選んだゲームであるオセロ盤が置かれている。

「確かに、そうね」

凛が頷いた。黒が海斗なのだろうが、盤上はほとんど白で埋まっていた。

「もう置ける場所ないね?」

「あ、あぁ…」

そうして、あっという間に白だけになる。

「はい、私の勝ち。じゃあ次の人」

強すぎる。イカサマなんてしてないのだろうが、疑いたくなるくらいには強い。

「あいつに勝つなんて、絶対無理だと思う」

海斗が心の底から言った。

「絶対って、そんなことはないんじゃないか?」

「いや無理」

浩の言葉に、全力で首を振る。

「だって、気がついたらなんか置ける場所少なくなってたし、白の方が多くなってたし」

「ふーん?」

「俺、割とオセロ強い方なのに全然歯が立たなかった。反則級の強さだったんだけど」

今は佳奈が少女とゲームをしているが、もうすでに顔色が悪い。

「浩は?何のゲームにすんの?」

「俺?俺はそうだなぁ、神経衰弱とか?」

「あら、記憶力に自信があるの?」

「まーね。暗記とかは得意な方だから」

「そう」

佳奈の方をじっと見ながら、凛は相槌をうつ。イカサマをしているわけじゃない。ただ圧倒的に強いだけ。それって、下手すると他の部屋の主よりも厄介なのでは?なんて考えていると、佳奈との勝負も終わったようだった。いくら何でも速すぎる。そして佳奈も、海斗と全く同じことを言った。

「あの子、強すぎるわ…。勝てる気が一切しなかった」

浩との勝負が始まる。

「何してるの?伊月」

凛が、伊月のしていることを覗き込んできた。

「えーっと、小細工?」

海斗も覗き込んでくる。

「言っていいのかよ、それ」

「大丈夫でしょ。ルール違反はしてないし」

「へぇー、考えたわね」

佳奈が、伊月のしていることを覗き込んでそう言う。

「まぁね。で、それよりも、凛は何のゲームであいつに挑むか決めた?」

「えぇ。チェスにしようかなって。普通に好きだし、割と強い方だと思うから」

チェス、か。どうだろうな。凛は、勝てるだろうか。今までのゲームを見た感じ、部屋の主はゲーム全般においてものすごい強さだ。

「そっか。頑張れ」

「うん。伊月もね。あ、伊月は何のゲーム?」

「俺はトランプにするよ」

凛がきょとんとする。

「何か意外ね」

「そうかな?」

分かりやすく誤魔化す伊月を見て、凛は苦笑した。

「まーどうせ、何か考えがあるんだろうけど」

それを聞いて、伊月も苦笑した。

「そんな感じ」

「うわー!無理!強すぎ!」

浩が叫んでいる。机を見てみると、少女の前には山積みの、浩の前には数枚のトランプが置かれていた。大差をつけられたのか。

「うるさいんだけど」

少女が思いっきり顔をしかめる。そしてしっし、と手を振った。

「ほら、早くそこどいてよ。次の人とゲームするんだからさ」

浩がしょぼくれた顔で伊月たちの方へ戻ってくる。

「じゃあ、行ってくる」

「おー、行ってらっしゃい」

絶対勝てよ、とは言わなかった。というか言えない。ただの勘だけど、あの少女に普通にゲーム挑んだって勝てるはずがない、と思う。とりあえず伊月は、心の中で武運を祈っといた。

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