第34話
ガチャ、とドアが開く音がした。
「あ、伊月」
「よっ」
2つ目の部屋から出てきたのは凛だった。
「何してるの?」
「なーんもしてないよ。思っていたよりも暇だった」
割とすぐに終わるもんだと思っていたのだが。
「ねーねー、トランプやらない?」
「トランプでもいいけど、他に何かないの?」
「色々あるよ。人生ゲーム、花札、モノポリー、あとパズルもあるけど」
引き出しからごそごそ取り出して、男が机の上に並べ始める。というか何かレパートリー増えてるんだけど。
「うーん、私もいいかな」
「暇だよなー」
「じゃあこれでもやってるといいよ。いい暇つぶし」
ぽい、と投げられたのはルービックキューブと知恵の輪。受け取って、伊月は素直にルービックキューブを回し始めた。
「はい」
投げ返すと、男は驚いた様子で言ってきた。
「え?早くね?まだ渡して1分くらいしか経ってないじゃん」
「ルービックキューブって、6面簡単にそろえる方法あるんだよね」
「それ、知ってるわ。私は覚えてないけど」
「何それ、ずるじゃん!」
「ずるじゃないよ。だって作った本人が言ってたことだし」
会話をしながら、伊月は知恵の輪にも手を伸ばした。知恵の輪は全部で5個あったので、1番簡単そうなのからやり始める。5個全てを外してからまた元に戻す。
「はい。もうこれも飽きた」
ぽいぽい投げる。
「いやだからね?早くない?」
「伊月って普通に頭いいよね」
凛のそれは褒め言葉なのか?
「他の部屋、まだ終わんないの?」
「みたいだねー」
男がモニターを見る。リモコンを操作して、映像が切り替えている。
「ここって、平均でどれくらいの時間がかかるものなの?」
「さぁ?ばらつきあるから何とも言えないな。1日で終わる時もあったし、1週間かかった時もあった」
1週間もかからないでほしい。
「ま、食べ物に困ることもないし布団もあるから安心していいよ。ここで5年暮らしてる奴が言ってるから間違いない」
「5年?」
「そ。俺」
「そ、それは災難?なのかしら…」
「大丈夫。何も苦に感じてなさそうだから」
「うん、割と楽しんでるよー。さすがに5年は長いけど」
男はにこにこ笑っている。
「まぁとりあえず、昼ごはんでも食べる?」
「え、もうそんな時間?」
凛がスマホを見る。
「そうね。11時半だけど朝ご飯食べてないからちょうどいいかも」
「凛、スマホ持ってんの?」
男が聞く。
「持ってるわよ。あ、そうだ。充電器とかある?一応充電しときたいから」
「あるにはあるけど、タダでってわけにはいかないなぁ」
それを聞いて、凛は少し考えていた。
「ふーん、なら昼ご飯のあとにいっぱいトランプの相手してあげるから」
「どーぞ」
早い。ちょろい。たかがトランプの相手でこんな簡単に釣れるとは。
「……」
凛もどうやら同じことを思っているらしい。が、何とか言葉を飲み込んでいた。
「ありがとう」
かろうじて笑顔を保って凛は充電器を受け取る。
「昼ご飯は何にする?」
「希望言っていいの?」
「いいよー。たぶん大体は要望通るんじゃないかな」
「じゃあ俺海鮮丼で」
「私はそうだな、すき焼きがいい」
「えー、2人ともクセ強くない?んー、そうだな、じゃあ俺はラーメンにしよーっと」
引き出しからタブレットを取り出して操作し始める男。あの引き出し、どんだけ物が入ってるんだ?
「10分くらいで来ると思うよ」
「分かった」
「じゃあ待ってる間、何する?」
「凛が選んだ部屋のこと聞きたい」
「いいわよ」
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