第26話

3回目は散々なものだった。生き残ったのはたったの1人。そしてあと18人。

「はい、4回目を始めるわ。早く選んでね」

「んじゃあ、俺、そろそろ行くから」

「うん」

女の言葉を聞いて、透はグループの方へと戻っていった。

「透、生き残るよね」

凛のそれは問いではなく確認。

「…さぁな」

そう言うと、凛は苦笑した。

「生き残る、とは言ってくれないのね」

「だって、絶対ではないだろ」

くすくすと凛が笑う。

「そうね。気休めに言われても逆効果だったもの」

言わなくてよかった、と伊月は心の中で思った。どこのグループも揉めることなく代表者が決まり、4回目が始まった。その中には透もいる。

「ねぇ」

凛が話しかけてくる。

「何?」

「…なんでもない」

「なんだよ?」

「なんでもないって」

何か言いたげな顔をしているのだが、それ以上は聞かないでおいた。

「そうか」

すると凛は不思議そうな顔をする。

「伊月って、ずいぶんと聞き分けがいいよね」

「それはどーいう意味だよ」

分かりやすいくらいにむすっとする。

「あ、いや、悪い意味じゃなくて。言いたくないって言ったら、深くは聞いてこないから」

「気になるのは普通に気になるぞ。凛があの女から何を言われたのか、とか」

凛の顔がひきつる。

「あれは…」

「聞いていいんなら聞くけど」

凛が首を振った。

「聞いてほしくない」

「だろうね」

「でも、話さなきゃいけないことなのも分かってるし、すぐ話すことになる」

「分かった」

「聞いておいてほしいことなの」

「なら待ってるよ」

凛が頷いた。いやまぁ、本当に気になってるんだけどなぁ。

「あともう1つ。ルールの抜け道のこと、話しておくわ」

「それは聞かなくていいって言ったと思うけど」

「聞いてほしい。そして実際にこのゲームを終わらせられるか意見を聞きたいから」

「そーいうことならまぁ、聞くけど…」

不思議そうに凛が首をかしげる。

「さっきから思ってたけど、何でそんなに嫌がるの?」

「んー…そういうのは1人だけが知ってた方がいいんじゃないかと思って…」

「何で?」

「なんとなく」

そう言うと、凛は察したような顔をする。

「理由は自分でもよく分かってないわけね」

「そんな感じです」

つまりただの勘だ。伊月は肩をすくめた。

「それで?ルールの抜け道は?」

「えっと、今やってるロシアンルーレットは、生き残れば勝ちなんだよね?」

「うん」

「必ず1回はルーレットをしなければいけないけど、でもそれって1回のルーレットを生き残れば勝ちってことじゃないかと思って」

確かに、ルーレットをしなければいけない回数は決められていない。ただ生き残れと言われただけだ。

「…天才?」

「えっ、いやいやそんなことないでしょ」

伊月には、全く考えつかなかった。どうしたらあの女が次の部屋へ通してくれるのかばかりを考えていた。他の人が生き残るために、なんて思いもせずに。

「やっぱ、凛は優しいな」

「きゅ、急に何よ」

「そう思っただけ」

それで素直に通してくれればいいんだけど、そうはいかないだろうな。

4回目が終わった。2人目の時点でハズレを引いてしまっていた。透は3人目だったから、これで死んだりはしていない。それはほっとした。やっぱり名前を知っていて会話もしているような、顔見知りの人が死ぬのは嫌だと思うから。透が戻ってくる。深いため息をつきながら、

「10歳くらい年老いた気分だよ…」

と言った。

「そんなことを言える元気があるなら大丈夫だな」

「…まぁ、うん…まぁ…」

「さぁさぁ、5回目!ほらぁ〜早く選んで?」

女の声。そしてあと17人。ゲーム終了(?)まであと1回。

「はーやーくー!」

ほんっと趣味悪い。声には出さずに思う。絶対好きにはなれない。だけど、どうしてここまであの女を嫌うのか、伊月自身にはよく分からなかった。5回目が始まった。幸い、伊月のグループは5人だったので1人1回で済んだ。4人のグループのところでは、2回目の参加をしなければならない人がなかなか決まらず、女がイライラし始めたりもしたのでなんとか5回目が始まってホッとしている。

「やーっと始まったわね。こんなに待たせないでほしかったわ」

女は少し怒っているようだった。むしろ怒りたいのは2回目の参加をさせられた人だろうに。

「うん、決めたわ!今回の人たちは、私を待たせた罰として実弾を3発、リボルバーに入れてルーレットをしてもらいます!」

「は⁉︎」

怒るのも当然だろう。死ぬ確率が格段に跳ね上がるんだから。階段の上から眺めていた人たちも驚いている。そんな中、凛は少し考えて女に向かって言った。

「ねぇ、それはルール違反じゃないの?」

「どうして?」

「ルール説明の時、あなたはそんなこと言ってなかった。銃を渡す時には実弾は1つ入ってるとだけ。この部屋の2つ前のところで聞いたけど、あなたにも勝手にルールを変えることはできないはずよ。紙に書かれてないことなんだから」

凛の言葉を聞いて、女は冷たく微笑んだ。

「えぇ、書かれていないことよ?でも、リボルバーの中に実弾は何発入れるかなんて、明確に定義されてはいない。なら、決めなければいけないことになるわ。ルールを明確にするために決めたことは、ルール違反になる?」

凛も、そのことには気付いていただろう。それでも敢えて言ったのは、少しでも生き残ってほしいと思っているから。だけど、そんな思いは残念ながら女には通用しない。

「残念!はい、3発入れまーす。順番は決めた?」

周りの声には全く耳を貸さずに女は銃弾を3発こめる。当然、誰も何も言えない。

「ねぇ、早くしてよ。銃弾、増やしてくわよ?」

そのひと言で、一気に5人が青ざめる。そして、順番の押し付け合いが始まる。その様子を見て、女は少し機嫌を直したようだった。

「やっぱりこうじゃないとね」

揉めに揉めること5分弱。少し直ったはずの女の機嫌はどんどん悪くなっていく。

「もう、遅すぎる!私が勝手に決める!」

結果、女が決めることになって5人が呆然としていた。あーあ、早く決めないから、と思うのはどうなんだろうか。ちょっと酷いかな?まぁ本心なんだけど。

「はい、どーぞ。早く撃ってね?」

満面の笑みで銃を渡していた。

そうして5回目も終わった。生き残ったのは3人。1人は時間切れで、もう1人はハズレを引いてしまった。手すりを握っていた凛の手に力がこもっている。ぽんぽんと軽くその手を叩いた。凛が伊月の方を見る。

「力、入りすぎ。勝負はここからだろ?」

凛が神妙な顔で頷いた。

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