第22話

伊月は困惑していた。突然凛が泣き始めたからだ。目の前で何人も人が死んでくのを見ていれば、まぁそうなるだろうけど。怖くて不安だったのだろうか。伊月には人の死が、まだピンときていなかった。ぼんやりと認識だけしている感じ。とりあえず隣に座っていた。凛が泣き止んだけど、泣いた理由を聞くのはやめといた。聞かれたくないことも、言いたくないこともあるだろうから。凛とルールの紙を覗き込んでいたその時、パン、と銃声がした。それに続いて、倒れる音とガチャンという音。高らかにあの女が笑う声。また1人、亡くなった。あと…22人。無意識に手を握りしめる。

「なんなんだよ、これ…」

こんなに簡単に人が死んでいく。『たまたま』選ばれて、そしてどんどん殺されて。なんで勝手に殺されなきゃならない?おかしいだろう。凛が伊月の腕を掴んだ。

「凛?」

凛は、ものすごく青ざめている。

「早く、早く見つけなきゃ…」

うわごとのようにそう呟くのが聞こえた。何度も何度も、自分に言い聞かせるように言っているのが。凛の目の前で、手を叩く。

「な、何?伊月」

「そんなに頑張らなくていい」

「でも!そんなこと言ってたら他の人が…」

「自分のこと優先。そんなに気を張っていたらそのうち倒れるぞ」

不満はあるようだが、納得はしているらしい。というか凛自身、気付いていただろう。それにしても。凛の方を盗み見て思う。優しいんだな、他の人のことを考えるなんて。俺にはできない。こんなこと言ったら酷い!とか言われそうだけど、正直言って自分が生き残ることで精一杯なんだよな。

「あっ…!」

凛が突然声を上げて立ち上がった。

「どうした?」

伊月が聞くと、周りからも視線が集まっていたのもあるのだろうけど、凛はすぐにまた座った。

「多分、ゲームは終わらせられる」

「何か見つけたの?」

「うん。でも、待たなきゃいけない。今すぐに、は無理なの」

悔しさで顔をしかめて凛は言う。

「それは、どれくらい待つ?」

「全員がロシアンルーレットを終えるまで」

「それって…」

「そうなの。誰も死なないかもしれない。でも最大あと3人、死ぬかもしれない」

待つのは、嫌なのだろう。凛の顔が更に歪む。

「凛」

「何?」

「ごめん。ちょっと酷いこと言う」

「え、別にいいよ」

「…うん。たぶんなんだけどさ、最大あと3人、ってわけじゃないと思うんだ」

「どういうこと?」

「10秒。銃を渡されてからそれだけしかないんだ。怖くて撃てない人だって多分いる。そしたら、その時間を過ぎたら?」

「それって…じゃあ、もっと?」

伊月は頷く。

「でも、どうすることもできない」

伊月のその言葉を境に2人は黙った。ルールは絶対。ロシアンルーレットのルールを作ったのはあの女で間違いない。隙のないルールだ。そして人がどんどん殺されていく中、何もできずにただ待つしかない。悔しかった。何もできないことが。2回目が終わって、人が戻ってくる。そして3回目が始まって。

「あ」

そう呟いた凛の視線の先に結奈がいた。先ほどまでの凛のように、床に座り込んでいる。ただ、凛よりも顔が青ざめていて震えていた。

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