第19話

「クリア条件は簡単よ。生き残ればいい。ただそれだけ」

その生き残ることが難しいんだろうが。

「ゲームの内容は?」

浩が聞いた。

「そう焦んないで。それに、命を賭けたゲームにはロシアンルーレットって決まってるじゃない」

そうなのか?というかロシアンルーレット、かぁ。とどのつまりそれって運…ってことだよな。

「ルール1つ目!必ず銃を撃つこと。怖い〜とか言ってずっと撃たないでいるのはなしね。その時点で即失格だから」

時間稼ぎすら出来ないようだ。

「時間制限は1人10秒。その間にちゃんと撃つこと。出来なかったらもれなくあの世行きよ?」

撃っても撃たなくても、1人は死ぬかもしれないのに。

「2つ目は?」

誰かが言った。

「5人1組になって、それぞれのグループで毎回、代表を決めることよ」

代表?

「選ばれた代表が下へ降りていって、集まった5人でロシアンルーレットをするの。あ、でも…」

女が人数を数える。

「あー、そっかぁ。さっき撃ったあれを含めて25人だったのね。撃たなければぴったりだったけど、しょうがないよね?いないものはいないんだもの。1組だけ4人ね」

4人のグループになったとしたら、誰か1人がロシアンルーレットをする回数が多くなるのか。

「3つ目。全員、必ず1回はロシアンルーレットをすること。あとは、これは4つ目にしようかなーとも思ったんだけど、3つ目のに含めることにするわ。グループ内の人間が全員ロシアンルーレットに参加してからじゃないと、もう1回参加することはできませーん」

スタスタと女が歩く。その道を開けるように人が退いた。

「ちなみに、グループは私が適当に決めるから」

女は、言った通り適当に分けていった。残念ながら、凛や浩とは違うグループのようだ。

「はい、今から5分間だけ時間をとります。代表を決めてね?決めれなかったらそのグループは全員ゲームオーバーだから」

5分。短いよな、それって。

「たった5分で、誰が死にに行くかを決めなきゃいけないのか?」

同じグループになったうちの1人が言った。

「無理だよ、そんなの…」

「どうするんだ?」

話し合いにすらならない。当然だけど。と、話し合いとも呼べないものをただ聞き流していたら、いつの間にか他の4人の視線が伊月に集まっていた。

「え、と。なんでしょう…?」

「ここの前の部屋で、鬼を捕まえたのってあんただったよな?」

「そうだけど」

「頭いいんだろ?何かいい案はないか?」

人に丸投げするなよ。いくら恨まれたくないからって。大体、そんなすぐにいい案なんて出てくるかってんだ。

「いい案は、無い。恨むのも嫌だし恨まれるのも嫌だけど、誰かが行かなきゃこのグループ全員が死ぬ」

「それは分かってるんだよ。だけど、ロシアンルーレットになんて誰も行きなくないじゃないか」

それは当然だ。誰だって好き好んで死にに行くわけがない。

「公平に決める方法はあるけど」

「それは何?」

「運の勝負。こういう時の公平に決める方法っていったら、じゃんけんでしょ」

「あぁ、なるほど。そうだな。代表が決まらなくても死ぬんなら、それの方がいいよな…」

なぜかちょっとがっかりしてる。いやいや、恨みっこなしならこれが1番だろ。

「じゃあ、負けた人が代表ということで」

伊月がスッと手を出すと、他の4人も出してきた。

「最初はグー、じゃんけんポン」

結果。伊月、グー。その他の4人、パー。見事な1人負けである。あれか?あれなのか⁉︎発案者がなぜか負けてしまうあれだったりするのか⁉︎

「あー、じゃあ行ってきます…」

「は、はい」

「恨みっこなしだからね、ごめんね…」

そんなこと分かってるし、恨むつもりもない。これは自分の運の悪さを恨むべきだ。というかわざわざ言うなよ…。

「はい、5分終了ー。代表者は前に出て」

女のその声で伊月は前に出た。

「あれ?」

他の代表者の中に、凛と浩がいた。謎に変な縁があるというか。

「じゃあ、ついてきて。降りるわよ」

女に続いて階段を降りた。

「使う銃はこれね」

6発撃てるらしい。ということは、誰も死なないかもしれない。けど、それは思ってるほど簡単じゃないことも分かってる。

「この銃には、1つだけ実弾が入れてある。他の5つはダミーね。で、誰から撃つ?誰からでもいわよ。ただ後になればなるほど、不利になることには変わりないでしょうけど」

不利になる?銃弾は1発だけなのに?伊月は不思議に思った。けど、それだけ。互いに顔を見合わせて、だけど何も言わず。腹の探り合いが始まったかに思えた。が、

「私が最後でいいわ」

凛がそう言った。伊月も含めて4人がギョッとなった。

「おい凛、それどーいう意味だ?」

浩が聞いた。凛は相変わらず浮かない顔で黙り込む。

「死にたいのかよ?」

「そういうわけじゃない」

「ならどうして最後を選ぶんだよ」

「私の勝手でしょ。浩には関係ない」

ずいぶんと刺々しい。浩がいらだっているのが分かる。

「関係ないわけ…」

「なぁ」

浩の言葉を遮って、伊月は女に話しかけた。

「なんで遮るんだよ、伊月」

「だって浩、あのまま続けてたら爆発してただろ」

「それは…」

自覚はあるらしく、浩は黙った。

「なぁ」

伊月はもう1度、女に話しかけた。

「何かしら?」

「ルールの紙、くれない?」

「どうして?私、ルールはちゃんと説明したわよ?」

「うん、それはそうなんだけど。1回言われただけでルールを全部覚えられるわけないだろ」

「あら、そう?はい」

女から紙を受け取り、改めて目を通す。


1、必ず銃を撃つこと。

2、グループを決め、その中から代表を1人決めること。

3、全員、必ず1回はロシアンルーレットに参加すること。

4、グループ内の人間が1人1回参加した後、も

 う1回ロシアンルーレットに参加できる。

5、生き残ればクリア。

※銃を持った人間は10秒以内に撃つこと。


…ちょいちょい変えてんなぁ。まず5人1組になって、なんて書かれてないし、ルールは5つあるし。代表決める時間のことも書かれてない。

「で、クリア条件が生き残ること」

「そういうこと」

女が相づちをうつ。

「クリア条件、ずいぶんと曖昧だな」

「そうかしら?はっきりしてて分かりやすいと思うんだけど。だって生き残ればいいんだから」

ルールに関しては分かった。生き残る。それは最後の1人になるまで、ということだろうか。それはともかく、当然だけどそんなすぐに抜け道は思いつかないので、今回ばかりは祈るしかなさそうだ。

「もういい?そろそろゲームを始めたいんだけど」

「あー、うん」

「なら、早く順番を決めて」

凛は…なぜかずっと暗い顔をしていた。女に何かを言われてからずっとだ。そして始終無言。話しかけられたら返事はするのだろうが、自分から声を発することはない。

「お、俺は1番がいい!」

「私だって!死にたくないもの!」

「俺は2、3番くらいなら…」

順番の取り合いが始まった。浩もぼそりと願望を言っている。そんな様子を見て、女は笑っていた。

「やっぱり、醜い争いをしている時の顔っていいわね。いつもキレイ事ばかりほざいてるくせに、こういう時は本性むきだし」

うわぁ、趣味悪っ。

「ねぇ伊月」

突然、凛に話しかけられた。

「何?」

「あなたは何も言わないの?」

「んー、言うとするなら俺は4番目でいいや。凛は5番目譲る気なさそうだし」

そう言うと、凛は目を丸くした。

「4番目?あなた死にたいの?」

そっくりそのままお返ししますよその言葉。

「いやそれ、凛が言えることじゃないだろ」

「それはそうだけど…」

「逆に、なんで凛は5番目にしたんだ?」

「……なんでだろう。やけくそ、かな?」

「え?マジで?」

「うん。今思えばそうかも」

そっちの方がヤバいだろ、という出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。しかし、何が凛をやけくそにさせたんだ?

「伊月、お前は?」

「ん?」

「ん?じゃなくて、順番だよ。あとお前だけだから」

凛と話していたら、どうやら伊月以外の順番はなんとか決まったようだ。

「空いてるのは?」

「4番目」

当然そうだろう。

「じゃ、4番目で」

「いいのか?」

「いい」

呆気に取られている。自分たちがあんなにギャーギャー騒いでいたのが今さら恥ずかしくでもなったのか。そうだな、一言言うなら大人げない。

「決まったかしら?」

「あぁ」

浩が答える。女は銃のリボルバーを回し、1番目の男に差し出す。

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