第16話
凛が説明を始めた。梓や結奈、透だけではなく、周りにいる人たちも聞き耳を立てているのが分かる。
「この部屋のルール。それは普通の鬼ごっこと変わらないものだったわ」
「うん。鬼と逃げる側に分かれてたよね」
「でも、少しだけ普通のものとは違った」
「え?同じって言ったじゃん」
「えぇ。ルールは、だけど」
梓のおかげで聞いている人の疑問が解決されている。話も進めやすいだろうな。
「普通の鬼ごっこなら、鬼側の方が圧倒的に少ない。じゃないと、逃げる側が不利になるもの」
うんうん、と梓がうなずく。
「でも、今回の鬼ごっこはその逆。逃げる側が1人しかいなかったのよ。それは今、檻に入ってるあいつ」
「え?じゃあ何、私たちが鬼側だったってこと?」
「そういうことよ。ルールには、私たちが逃げる側だなんて書いてなかったし。それにあいつ、人を殺しても檻に入れなかった。ルールには、『鬼は捕まえた者を檻に入れること』ってちゃんと書いてある。殺してしまってもOKなら、殺した後に檻に入れなければルール違反。だけど殺したのが鬼側ではなかったら?逃げる側が鬼を殺してはならない、とはルールにはない」
「ま、待ってまって。それって、あいつは逃げる側だけど、鬼を演じてたってこと?」
「演じてすらいないんじゃないかしら。私たちが勝手にそう思い込んでいただけだから」
「…そーいうことかぁ…」
凛の説明が終わると同時に、パチパチと拍手が聞こえた。拍手しているのは、少年だった。
「せーかい!すごいねぇ、それに気付くなんてさ。でも、今気付いたところで意味ないんじゃない?」
「そうね、意味なんてないわ。もうあなたに殺されてしまった人は戻ってこないわけだし。だけど、それでも私は知りたかったの」
「ふーん」
にこにこと少年が楽しそうに笑った。
「さて、そろそろかな」
少年が呟く。そして檻の中で立ち上がり、声高らかに叫んだ。
「ゲームクリアおめでとう!始まったばかりだけど、気を落とさずに頑張って?では、次の部屋へ移動してくださーい!」
タイミングよく壁がスライドして道が現れた。ぞろぞろと人が移動していく。人数は減ってしまったが、伊月の顔見知りは全員生きていたはずだ。伊月が移動する人たちについて行こうとしたら、呼び止められた。
「伊月」
檻の中にいる少年だった。他の人たちはもうすでにほとんど部屋から出ている。
「何?」
「いや、そんなすっごい嫌そうな顔しないでよ」
そんな顔していたのか。とりあえずへの字に曲がっている口だけでも直した。
「で?」
「君だけは特別ルールを課されてるんだよね?」
「…」
「何で黙るの?」
「言えないから」
そう言うと、ちぇー、と口をとがらせてつまんなそうな顔をされる。
「ひっかかんないなぁ」
しゃべれなくなるのは本当に嫌なんだよな、と声には出さずに思う。そして特別ルールが課されていることは知っていても、その内容までは知らないようだ。
「もう行くぞ」
「あー、うん。いいよ、行って」
何なんだ?大体、なんでそんなに俺を殺したいのだろうか。こう言っちゃダメかもしれないけど、他にも人はたくさんいるのに。そう思いつつ、伊月は通路へと足を向けた。
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