第15話

少年が檻に入ったことで、緊張してピリピリしていた空気がすこし和らいだ。それは別にいい。どっちかっていうとうれしいくらいなのに、と伊月はため息をつく。

「このルールってどういう意味だったの⁉︎」

とか、

「なんであいつはあなたのことを知ってたの?」

とか。さっきからずっと質問責めされ続けている。鬱陶しいし、何も言えないんだから勘弁してくれ、と伊月は心の中で叫んだ。

「あいつが俺のことを知ってたのはなんでかなんて、俺にも分かんないよ」

大体、ルールの意味なんて少しは自分で考えろ、と思わず言いそうになる。

「ルールの意味に関しては、俺からは何も言えない」

「何で!教えてよ!」

梓が一番しつこかった。

「もうクリアしたんだから知ったって意味ないだろ!」

「知りたいのよ!しょうがないでしょ、分かんないんだから!」

なんで梓がキレてんだ…。ねーねー、教えてよー、となおもしつこく聞いてくるもんだから思いっきり叫んだ。

「うるっさいな!少しは自分で考えろよ!」

「だって!」

梓も叫ぶ。

「ねぇ黙って」

とてつもなく冷たい声で凛が言う。低く、静かにキレているのが分かる声だ。そこまで大きくない声なのに、伊月も梓も、何なら周りにいる人たちまで凍りついた。

「えーっと…」

「怒ってないわよ」

伊月は言葉を飲み込んだ。

「…はい」

一瞬にして静まり返った。凛怖い。

「そ、それよりおかしくないか?」

一気に凍りついた空気の中、浩が少しビビりながらも言う。

「何が?」

「この部屋でのゲームはクリアなんだろ?ならなんで次の部屋へのドアがないんだ?」

それは確かに。次の部屋に行けるはずなのに、道がない。

「なら、あいつにちょっと聞いてくるよ。その間に、凛も考えてみて。この部屋のルールの意味」

先程までの空気を変えるように、伊月はわざと明るい声で言った。

「分かんないわよ、そんなの」

あぁ良かった、凛の雰囲気が和らいだ、と伊月は心の中でホッとした。

「大丈夫。凛なら分かるから。ちゃんとルールを読んで。ルールに全部書いてるから」

どこまでがヒントにならないのか分からないので、これくらいしか言えない。考え始めた凛を横目に、伊月は少年の方へ向かった。

「なーに?伊月」

相変わらず余裕そうだった。銃を向けられてないからだろうか。

「次の部屋に行きたいんだけど」

「行けばいいじゃん」

「ドアがない」

そう言うと、にやっと笑った。

「あぁ、そういうこと?つまり僕に開けろって?」

「いや、開けなくていいから場所と開ける方法を教えろ」

「僕が開けた方が早いよー?」

「檻から出たいだけだろ」

「あちゃー、バレてた?」

「いいから」

少年が肩をすくめる。

「そう焦んないでよ。ドアは勝手に開くんだから。ある程度の時間がたったらさ。伊月がクリアするのが早すぎたんだって」

「じゃあ、待ってればいいのか?」

「そうそう。そうだなぁ、あと5、6分くらいかな。本当は、次の部屋への道が出てきて逃げていく、みたいになるはずだったのになぁ」

クリア出来なくても、次の部屋へは行けるらしい。

「分かった」

くるりと背を向けて凛の方へと戻った。

「あいつ、なんて言ってた?」

必死に考えている凛の横で、浩はのんびりと聞いてきた。

「あと5分くらいで開くって。それより、浩は考えないの?」

「うん、だって分かんねーもん」

「ちょっとは自分で考えてみたらいいじゃない?人に聞いてばっかなんだから」

凛がぼそりと呟いた。

「凛は?」

「ただの鬼ごっこのルールしか書かれていないのよね…」

「そうだね。なぁ、凛」

「何?」

凛が顔をあげた。

「檻の中にあいつ1人しかいないんだよな」

「…?どういうこと?」

言葉の意味が分かってないらしい。が、これ以上言ったら完全にヒントになる。

「そのまんまの意味。もっかい言うぞ?ちゃんとルール読んで」

「ルール…」

また考え始めた、と思ったら、突然、

「あっ!」

と叫んで立ち上がったもんだからびっくりする。

「そのまんまの意味、ねぇ。なるほど、そういうこと」

凛は分かったのか、納得したように頷いている。

「凛、分かったのか?」

「えぇ」

「教えてくれないか?」

「いいわよ。伊月は言えないからね」

「あぁ」

「私にも教えて!」

そばで耳を立てていた梓が駆け寄ってきた。ついでに結奈と透も。

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