第1の部屋

第12話

ドアの先には通路が続いていた。そんでまたしてもドア。

「さて、俺たちはここまで」

ドアの前でピタリと足を止め、狐面の男はくるりと振り返った。

「え?」

「いやだからね?ここまで」

「ふーん?そのドアから先は違う奴の部屋ってこと?」

「そうそう。そういうこと。だから、俺らはこの先へは行けないの」

またもひらひらと手を振る。すっとドアの前から体をどかし、狐面の男が言う。

「伊月、凛、浩。準備は終わった。ここから先は己の力と運次第。君らのこと気に入っちゃったからさ、普段はこんなこと言わないけど言う」

「普段は言わないんなら言わなくていいだろ」

真面目くさった空気をぶち壊してフードの男がぼそりと呟いた。

「あーもう!今すっげぇいいこと言おうとしてたんだから邪魔すんなよ!」

「それ自分で言うのか」

「うっさいな!いいだろ別に⁉︎」

ほんの数十分くらいしか関わってないはずなのだが、この漫才にも見慣れたものだ。

「何も言わないならもう行くぞ。じゃ、ありがとな」

「待って⁉︎言う、言うからさぁ」

「言うなら早く言って?」

「分かったよ。死なないで。絶対に、とは言えないけどさ」

3人で顔を見合わせて吹き出す。

「何?なんだよ、なんかおかしいこと言った?」

「いいえ。でも私たち、死ぬつもりなんてないわよ?」

「せいぜい足掻くさ。死にたくないから」

「そうそう。何のために武器2つ持ったと思ってるんだよ」

そう言ったら、今までで1番優しく笑った、ような気がする。お面つけてるからやっぱり分からないけど。

「そうだよな。じゃあ、頑張れよ」

「今までここにきた奴らの中では1番応援してる」

フードの男のそれは果たして応援というのか少し疑問に思いながらも。ゆっくりとドアノブを回す。

「じゃあな、まずないとは思うけどまた会えたら」

「おー、死ぬなよー」

軽いよな、ほんと。ドアの向こうへ進みながら伊月は思った。そしてまたしても真っ白な部屋。

「あーっ!伊月、凛ちゃん、浩!」

梓が向こうのほうで叫んでいる。そんでもってブンブン手を振っている。

「ちょっと梓さん、落ち着いて…」

結奈がなだめていた。どうやら向こうは向こうで、梓、結奈、透の3人で行動していたようだ。

「落ち着いてられないわ!やっと会えたのよ?」

「はいはい、ほんの数十分くらいしか離れてないけどな」

「何よ浩。自分は伊月と凛ちゃんについていけてラッキーって思ってるくせに」

「ふーん、なるほど。だからあの時、私に待ってって言ったのね」

「いや、違うよ?そんなわけないじゃないか」

「そんなこと言ってたのか。まぁでも、別にいいんじゃない?もう終わったことだし」

「伊月ぃ…」

「悪いけど、俺、浩の味方するつもりもないからな?」

「えっ、そうなの⁉︎」

「だってつまりアレだろ?利用したってこと」

「違う、違うんだよ…」

どんどん小さくなる浩。残念ながら自業自得としか言いようがなさそうな行動なので何も言わない。

「あのさ、そんなことはどーでもいいから…」

伊月がそう言うと、今度は梓と凛が声を揃えて言う。

「「そんなこと⁉︎どーでもいい⁉︎」」

またしてもその勢いにたじろぐ伊月。

「え、うん。どーでもいい」

「嘘でしょ?」

「ほんと」

「俺、別にそんなつもりじゃなかったんだよ…」

「それで?何、伊月?」

浩をガン無視して話を続ける梓。

「これ、今どういう状況?」

「あぁ。部屋の主がいないのよ。だからどうしようもなくて」

「ルールの紙は?」

「見当たらないわね」

「ふーん…?」

ルールの紙がない?いや、そんなはずはない。ルールの紙は、絶対に貼っておかなければならないはずだ。でなければ、共通のルールに反する。そういえば、今いる部屋は、今までで1番大きい部屋のようだ。

「凛、地図、見してくれない?」

「いいわよ」

えっ?地図って何?なにそれ?という梓のことはほっとく。だって説明めんどくさいもん。ばさり、と凛が地図を広げた。

「今いる部屋は、多分ここ。この地図を見た感じ、ここから先は1部屋ずつだと思うわ」

「確かに」

凛が指差した場所からは、真っ直ぐ部屋が続いていた。

「この部屋も含めて4つ、か」

「みたいね。4人の部屋の主を倒さなければならないということかしら?」

「そうだろうな」

「もういい?」

「うん。ありがとう」

いそいそと凛が地図をしまう。さて、どうしたものか。主もおらず、ルールの紙もないときた。これでは、どんな行動がルール違反になるのか分からない。とりあえず、ルールの紙を探してみようかな。そう思って立ち上がった瞬間に、壁がスライドして道が現れた。

「お、来た来た。待ってたよ〜」

伊月や凛よりも幼い少年の声。壁の中から現れたその少年は、フードも被ってないし、お面もつけていなかった。服装は白いパーカーに白いズボン。おまけにスニーカーも白だ。白すぎるだろ。その少年は部屋の中を一瞥し、伊月の方をまっすぐ見てきた。

「で?君が伊月?でいいんだよね」

スタスタとこちらまで歩いてきて、顔を覗き込んでくる。

「そう、だけど」

そう言った瞬間、パッと笑顔になった。

「はい、これ。ルールの紙」

半ば押し付けるようにして伊月に渡してきた。

「早く見て。それでゲーム、始めようよ!」

「分かったからちょっと待って」

凛も紙を覗き込む。


1、今から始まるのは鬼ごっこである。

2、鬼は逃げる者を捕まえなければならない。

3、鬼は捕まえた者を牢屋へ入れること。

4、武器を使っても良い。

5、捕まえる際、殺してしまっても良いこととする。


「…鬼ごっこ?」

「そうそう!今から、僕と君たちで鬼ごっこをするの!」

そう言った少年の顔には満面の笑みが広がっている。

「楽しませてね?伊月」

「あんまり期待しないでほしいんだけど。というか楽しませてって言う割にはなかなか不穏なこと書いてるけど」

「それも含めて、だよ。それぐらいのスリルがないとつまんないでしょ?」

つまらないくらいがいいのに。

「はいはい、じゃあみんな入ってきたドアの方に寄ってー」

「何で?」

に、と笑って少年が答える。

「危ないから」

そう言った瞬間に、ポケットから取り出したスイッチを押す。ゴゴゴ、と音がして床が揺れ始めた。

「…おいおい…」

思わずそう呟いて目を擦ってみるが、当然、夢な訳もなく。数分後には壁が現れた。それもいくつも。まるで迷路みたいに。ついでに言っとくとちゃんと檻まで用意されている。その檻の上に座って、少年が高らかに告げた。

「さぁ、ゲームをしよっか!」

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