第11話

フードの男は、壁に手をついた。

「え?そこ開くのか?」

浩がまた驚く。

「あぁ。というかこの部屋は今、ここしか開かない」

ぐ、と力をこめて押す。ガコン、と音がして、壁が回った。文字通り、ぐるりと。そこに現れたのは、人が1人通れるくらいの通路。

「行くぞ」

フードの男に続いて、黙ってついていく伊月たち。ただひたすらにまっすぐ歩く。次のドアが見えた。ドアの向こうには、狐面の男しかいなかった。

「やぁ」

ひらひらと手を振られる。

「他の人たちは?」

「先に次の部屋に行っててもらったよ」

「今度は何をくれるの?」

凛が聞いた。そうそう、それが気になる。

「次はね、選ぶ権利だよ」

3人して首を傾げる。

「んーとね、ここでは、1つだけしたいことを叶えられるんだよ。例えば親に電話したいーとか、この先の部屋のルールを先に見たいーとか」

ついで、フードの男が口を開く。

「これは権利だ。使うも使わないものお前ら次第。ただし、この部屋でしか使えない権利だけどな」

「そうそう、このゲームをクリアしたことにするってのはナシね。それだけはダメ。さて、どうする?」

突然与えられた選択。

「もう1個武器をもらうってのはアリ?」

浩が聞く。

「アリだよー。どんな武器が欲しい?」

「銃、光線銃」

「りょーかい!凛ちゃんは?」

「私は…」

凛が少し考え込む。

「ここの地図、かな」

「ここって?」

「この先の部屋とか、今まで通ってきた部屋全てが書いてある地図」

「りょーかいりょーかい。伊月、君は?」

「俺はいいや」

「分かった…って、え?」

「は?」

「ちょ、ちょっともっかい言って?」

「だから、いい。いらない」

伊月がそう言った瞬間に凛と浩は慌てて止めにかかる。

「何言ってるの?なんでもいいのよ?」

「ここでしか使えないんだぞ⁉︎本当にいいのか⁉︎」

「いや、そう言ってるって」

「権利を放棄するの?もう1度良く考えて?」

「考えた。この意見を変える気はないよ」

狐面の男が吹き出す。

「あっはっはっは!」

「な、何だよ」

ヒー、と苦しそうにお腹を抱えて笑っている。何がそんなに面白いのか。

「いや、ね?この部屋に来たことがある人間は他にもいたわけ。その全員がここで権利を使うことを選んだの。普通はそうでしょ?こんなラッキーなことないんだから。浩のように武器を2個持つことだってできるんだし」

「うん」

「権利を使わないなんて初めて聞いたし、伊月が2人の説得に全く耳を貸さないからつい…」

そう、普通は。普通なら間違いなく権利を使うことを選ぶだろう。だけどちゃんと考えたのだ。考えてこの結論に至った。

「もう1度、聞いとく。変える気はないんだね?」

「ない」

凛が何か言いかけてやめた。諦めた様子である。バカ、とでも思っているのだろうか。もしそうなら心外だな。俺だってちゃんと考えてるのに。

「じゃ、地図と銃ね。頼める?」

フードの男は小さく頷く。

「俺の仕事だからな」

それから数分ほどで、フードの男の手によって地図と銃が運ばれた。

「さて、皆さんお待ちかねのようですし?さっさと行こうか、次の部屋へ」

狐面の男が次の部屋へと続くドアを開けた。

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