第10話

伊月の説明を聞き終えて、凛と浩はなぜか伊月以上に怒っていた。

「何よそれ!」

「伊月はまともな武器も選べなかったのに⁉︎」

「覆せないとか知らないわ!勝手にこんなどこかも分からないところに連れてきて、訳の分からないことをさせてるのに!」

「いや、あの2人とも?落ち着いて?」

そう言うと、2人してぐわっと伊月の方を見て、なぜか声まで揃えて言う。

「「なんで落ち着いてられんだ!」」

「え、えー、いやだって…」

あまりの迫力に思わずたじろぐ。そんな伊月の様子に、凛が思いっきりため息をつく。

「何なのよ、本当に。ヒントも何も言ってはならないって頭おかしいんじゃないの?馬鹿なの?ふざけんじゃないわよ」

さらっと、怖いことを凛が言う。

「あのー、凛さん?口調が…」

「うっさい!しょうがないでしょ!」

「あ、はい」

凛のことはしばらくそっとしておこう。おかしいな、自分のことのはずなのに。

「そんなことより…」

「そんなこと⁉︎」

「えっ、うん。そんなこと」

ありえないという顔。そんなに驚かなくても…。とは思いつつもそのまま続ける伊月。

「何で誰も来ないんだ?」

「そういえばそうね。さすがに何人かは選んでいてもいいと思うのだけど」

「優柔不断な奴ばっかりってことじゃねぇの?」

「いやまぁ、それならそれで別にいいんだけどさ、こんな調子で全員揃うのいつになるんだ?」

2人が黙った。

「………さぁ?」

「それって…やばい?」

浩が凛に聞く。

「やばいなんてもんじゃないでしょ。下手したらこの先に進む前に餓死するわ」

この部屋から出られない以上、本当にそうなりそうで怖い。

「もうホントにすることないからさ、寝ようか」

「「はぁ?」」

また2人の声が揃う。

「え、だってすることないし暇だし。もう他に思いつかないんだけど。大体、時間の感覚なんてとっくにないから今が朝なのか夜なのかすら分かんないじゃん」

「時間なら分かるわよ」

スッとスマホの画面を見せられる。21時。もう夜だ。

「ほら夜じゃん、寝よ寝よ!」

スパン、と浩に頭を叩かれる。

「なんだよ」

「こんな状況でグーグー寝れるほど神経図太くないんだけど?」

「そうだぞ!そもそも伊月、お前の神経が図太すぎるだけで、俺たちはそんなことないんだからな!」

「大丈夫だって。というかこの先いつ寝れるか分かんないんだから寝といたほうがいいんだって」

今度は頭をグリグリされた。これは本当に痛いからやめてほしい。若干涙目になりながら、

「何すんだよ!」

と叫ぶ。

「無駄に説得力あるのがムカつくわね」

いや知らないし、という言葉は喉の奥で飲み込んだ。

「じゃあ何すんだよー」

「待ちましょう。それしかできないんだから」

「いやだから寝…」

「伊月?」

にっこり満面の笑みを浮かべて伊月の方を見る凛。

「…な、何でもないです」

そう言わざるを得ない。満面の笑みほど怖いものはないのだと初めて知った。いわゆる無言の圧力というやつか。

「元気だな、お前ら」

「別に好きで元気なわけじゃ…って」

浩が言ったのかと思ったのだが。

「ん?なんだよ。そんなに驚くことか?」

いつのまにかフードの男がいた。

「え、いつ入ってきたの?」

浩が驚いた様子で聞く。伊月も全く気づかなかった。

「ついさっきだけど」

「何の用かしら?」

「全員が物を選んだから、次の部屋に進む」

「3人だけしかいないけど」

はぁ、と深くため息をつき、舌打ちをしてめんどくさそうにフードの男は言う。

「あいつがお前らのこと気に入ったからな」

その時、アナウンスが流れた。声は狐面の男のものだ。

『全員が物を選び終わったので、次の部屋に進みまーす。ただし、今回も上位3人にはあるものをあげます』

チラリとフードの男の方を見る。

「これのこと?」

「あぁ」

「次の部屋って?ドア、ないみたいだけど」

凛が聞いた。

「次の部屋ならある。あっちだ。ついてこい」

伊月たちが入ってきたドアとは反対側の壁を指差してフードの男は言った。

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