第7話

2回ほど角を曲がったところに、またドアがあった。今度はちゃんとドアノブがある。次の部屋に足を踏み入れた。うーん、普通。さっきの部屋よりも小さいくらいで何の変哲もない部屋だ。ちなみに言っとくと、何にもない。椅子も、机も、何にも。あるとすれば…あ、紙がある。またルール?


1、この部屋は全員がそろうまで次の部屋への道は開かれない。

2、前の部屋へ戻ることはできない。

3、この部屋には時間制限がない。


また3つ。何なんだ?前の部屋へ戻ることはできない?…猛烈に嫌な予感がする。これは絶対に振り返っちゃダメなやつだ。だけど振り返らずにはいられないのが人間だ。そう、しょうがないんだよ。ってかなんかさっきからしょうがないって何度も思ってる気がする。まぁいいか。くるっと振り返る。そのまま何も言わずに天井を見上げた。

「はぁー」

思わず出るため息。予想どーり、入ってきたドアはどこにも見当たらない。探そうと思えば見つけられるかもしれないだろうが、ドアノブがない。えー、じゃあ何?これ、ずっと待ってなきゃいけないの?この部屋では俺何もできないじゃん。暇だなー、とは思いつつも部屋からの脱出を試みようとすることもなく。時計すらないのでどうしようか悩んでいたが、悩むことすら飽きた伊月は寝ることにした。

「そうだよ、どうせこの先いつ寝れるか分かんないんだから。寝れる時に寝とこう」

伊月は飽きっぽくて無駄にポジティブである。ついでに言っとくと、神経も図太い。ということで、ごろんと寝っ転がるとすぐに寝息をたてはじめた。

「なぁ、なんでそんなにスタスタ歩けんだよ…?」

「浩がビビりなだけでしょ」

という声が聞こえてきたとしても。それに気づかないぐらいに熟睡できてしまう。ガチャ、とドアが開く。部屋に入ってきた浩と凛は一瞬固まった。まぁ当然のことである。

「おい、伊月?」

聞こえるわけもなく。

「何してるの?」

返事もせず。

「お、おい?」

浩はオロオロするが、凛はそのままずんずんと歩いて、伊月の顔を覗き込んだ。

「……」

「凛、どうしたんだよ?」

はぁ、と盛大なため息をつきながら凛が答える。

「寝てるだけよ」

「ね、寝て?」

「えぇ。だけどよくもまぁこんな状況で熟睡できるわね」

浩も恐る恐る伊月の側まで来る。凛が伊月の鼻をつまんだ。

「んぐっ⁉︎」

目を開ける。

「おはよう。熟睡中悪いけど起きてくれないかしら?」

「え、あ、いや、凛なんか怒ってない?」

「怒ってない」

「いやでも…」

「怒ってないからさっさと起きて?」

「はい」

怖い。笑顔なだけに余計。伊月は慌てて飛び起きた。

「2人も選んだの?」

「おう!俺はこれだ!」

と言って浩が自慢げに見せてきたのは、刀だった。たしか棚に置いてあったような。

「ふーん」

「ふーんってなんだよ伊月。すごくないか?刀だぞ刀!」

「いや、剣道とかやってたんならまぁそれでもおかしくはないけど、浩、それ使えるの?」

「え?いや、分かんない」

使えないかもしれないという事実に今さら気付いた浩がしょんぼりする。

「凛は?」

「私はこれ」

スッと差し出されたのはスマホ。やっぱり気付いたか。

「え?何で⁉︎そんなのなかったじゃんか」

浩は驚いた様子でそれを見ていた。

「あなたは気付かなかったのね」

「何が?」

「あっちの部屋で狐面が言ってたこと聞かなかったのか?」

「いや、聞いたけど」

「ちゃんと聞いていたなら気付いたはずだよ」

そう言うと、浩は頭を抱え出した。思い出そうとしているのだろう。とりあえずほっとこう。

「あー、無理!分かんねー!」

諦めるのが早すぎる。伊月と凛は呆れた。

「教えてくれよ!なー頼むって」

浩がしがみついてきた。正直うっとうしい。

「あの狐面の言葉がヒントだったんだよ」

「どういうことだ?」

「この部屋にあるものには、って言っていた」

「あぁ」

「…」

気付かないの?という目で凛が見ている。

「えっ、何?」

凛の気持ちを代弁しとこう。

「気付かないのか?」

「何を?」

浩が首をかしげる。本当に分からないのか。伊月は少し不思議に思った。そんなに難しいか?

「この部屋にあるものには、つまり並べてあるものには限りがあった。在庫がそれだけってことだろ」

「あぁ」

「なら他には?」

「ないだろ?」

「あったんだよ」

「いや、なかったって」

「だから、あったんだよ」

はぁー。凛がため息をつく。これ以上余計なことを言わないでほしい。凛がどんどん機嫌悪くなってるんだから。いや、1番最初に機嫌を悪くしたのは伊月自身だけれども。

「あの部屋にあるものしか選べない、なんて言ってない」

どういうこと?という顔をしているので補足しておく。

「欲しいものが決まったらプレイヤーじゃない人に言ってってことは、部屋の中にあるものを選んでその人のところに持っていって、これが欲しい、って言うことじゃないんだよ。欲しいものはこれです、あるならくださいって言えばそれでいいんだから」

それでも分かっていないようだ。それを見かねた凛が口を開く。

「部屋の中にある自分が欲しいもの、という意味じゃないわ。部屋の中のものも確かに選べる。だけどその中に自分が欲しいものがなかったら?」

「選ぶしかない」

「じゃなくて」

凛の言葉から、イライラしているのが分かる。

「自分が欲しいものが部屋の中にないのなら、言ってみればいいのよ。これはあるかって」

「え?じゃあ、銃でもなんでも選べたってことか?」

「そうよ」

やっと分かったのか、とまた凛がため息をついていた。

「それで、あなたは?」

「え?」

伊月の方に質問が来た。

「あなたが選んだもの。私たちに聞いたんだから答えてくれたっていいでしょ?」

「あー。うん、そうなんだけど」

「何を選んだの?」

「選んだっていうか選んでたことにされたっていうか…」

「もったいつけないで教えてくれよ」

伊月は観念する。

「これ」

ポケットから取り出して差し出した。

「…砂時計?」

「うん」

「なんで?」

「カウンターの人が、もう持ってますねって」

「取り替えとか…」

「却下された」

「じゃあ選択肢なかったってこと?」

「まぁそういうことかな」

「うわ、何それ。カワイソー」

イラっとする。棒読みすぎるだろ。

「選べなかったんだからしょうがないよ。それより、これ見て」

2人に紙を渡す。

「これ、ルール?」

「うん」

「3つだけなんだ」

「これだけ?」

「みたいだな」

紙を返される。

「ねぇ、全員が集まるまでは先に進めないってことよね?」

「そうなる」

「なにそれ暇じゃんか」

いや、それはそうなんだけどな。

「まぁでも?することないなら作ればいいんだから」

「することって何を?」

「凛、スマホを選んだんだよね?」

「そうだけど」

「それ、使えるの?」

はぁ、とスマホの画面を見ながら凛はため息をついた。

「それが、繋がらないのよ。ネットに接続されてもいない。予想はついてたけどね」

繋がらない、か。

「普通は、だろ?」

「どういうこと?」

「それを選べたんだから、使えるはずだと思うんだよ。例えば、特定の電話番号とか」

「そんなものないわよ?」

確かに、電話番号なんて書かれていない。だけど、全く使えないものを選択肢の中に用意しとくとは思えない。

「…カバー」

「え?」

「スマホのカバー、それ外せる?」

「たぶん。やってみるわ」

そう言って凛はカバーを外す。すると、中から1枚の紙が出てきた。

「これって…」

3人でその紙をのぞき込む。

「電話番号…でいいのよね?」

「たぶん?」

「なんで疑問形なんだよ伊月」

「あってるか分からないから」

「とりあえずかけてみるわ」

凛がスマホを操作し、スピーカーにする。プルルルル、という音が聞こえた。

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