第4話
ふぅ、と深呼吸して暗い通路の中へと入っていく。真っ暗で、一歩先すらも見えない。壁に手をついてゆっくりと進む。音と手のひらから伝わる感覚だけが頼りの中、伊月の足音の他にもう1つ、後ろから足音が聞こえた。振り返る勇気はないのでそのまま進む。しばらくすると、暗闇に目が慣れてきたのか周りがぼんやりとはいえ見えてきた。周りを見たって何もないのだが。曲がり角を曲がるとそこには1つ、ドアがあった。小さな明かりも置いてある。ドアノブは…ない。どうやって開けるんだ?とりあえず近づいてみる。すると、何かが書いてあった。
『朝は4本、昼は2本、夜は3本足がある動物、なーんだ。答えられるのは1度きり』
ずいぶんと有名ななぞなぞだ。ぼそりと答えを言うと、ドアが開いた。どういう原理なんだろう?
「やぁやぁ、君が1番最初かな?」
その部屋は、さっきの白い部屋よりも小さかった。椅子が1つだけポツリと置かれていて、狐面の男は、その椅子に足を組んで座っている。背も高くスタイルがいいので、その格好がよく似合う。奥にドアはあったけど、開くかどうかは分からない。伊月は肩をすくめて、ドアを通りながら、
「みたいだな」
と答える。ギィ、と音がしたので振り返ると、勝手にドアが閉まっていく。狐面の男は椅子から立ち上がり、聞いてきた。
「なぞなぞは分かった?」
「うん」
「ふーん、答えてきたの?」
「答えた方が楽にドアを開けれそうだったから」
へぇ、と狐面の男は目を細めた気がした。
「なんでそう思う?」
「だってドアに書かれていたなぞなぞは、絶対に解けとは書かれてなかった。なら、解かなくてもドアは開くってことだろ?取っ手がないなら開ける方法は押すくらいしかない。だったら、わざわざ押さなくてもいっかな、って思って。実際あえて答えてみたら、ドアが勝手に開いただけ。得したことといったら無駄な体力を使わずに済んだくらいだったし」
「間違えたらってこと考えなかったの?」
「考えなかった。間違えたところで死ぬわけじゃないならいいか、と思った」
伊月の話をそこまで聞いて、狐面の男は笑い出した。
「なんで笑うの?」
「いや、あいつが君の名前を知りたがった理由が分かった気がするからさ」
あいつ、というのは、多分のっぺらぼうの奴のことだろう。
「名前を知りたがった?」
「聞かれたでしょ?」
「聞かれたけど」
「あいつ、基本的に他人に興味ないから君に名前を聞いたって知った時はびっくりしたよ」
それはなんでだろうな。というか情報早くね?
「ねぇ、俺にも教えてよ。名前」
「えぇ…」
「えぇ、って何?あいつには教えたのに俺には教えてくれないの?」
めんどくさっ、と思ったのが顔に出てたらしく、
「ひっどぉ」
と笑っていた。笑ってる時点で、本心じゃないな。
「いいじゃん、別に減るもんでもないし」
しつこい。はぁ、とまたため息をついて、
「高村伊月」
「ふぅん、伊月、ねぇ」
「何?」
「別に?いい名前じゃん」
「はぁ?」
伊月のどこがいい名前なのか。伊月自身には、分からなかった。ギ、ギギギ、とドアが軋む音がした。振り返ってみると、ドアが開いていく。ドアの向こうにいたのは凛だった。あの足音は凛のものだったのか。凛は、静かに部屋に入ってきた。また、ドアが勝手に閉まっていく。
「君が2番目、でいいのかな?」
「えぇ、そうね」
「ちょっと意外だったな」
「何が?」
「1番目と2番目が、君ら2人だったこと」
凛が伊月の隣に並ぶ。
「なんで意外なの?」
「だって、君らよりも年上の人の方が多かったじゃん」
それはまぁ、そうだけど。
「ま、それはさておき、とりあえず待ちますかー」
くるりとドアの方を向き、椅子2つおねがーい、と言いだした。何してんだコイツ、と思っていたらドアが開いて、今度はフードを深くかぶった人が椅子を2つ持って出てきた。
「こんぐらいの距離なら自分で取りに来いよ」
かなり細くてフードから髪が垂れていたから女性かと思ったら、フツーに男。しかも口が悪い。
「いいじゃん、お前の仕事なんだらかさ」
「いーや違うね。俺の仕事はこの後からだ」
この後?というか部屋の主って1人じゃないのか?と、伊月は首をかしげる。
「ねぇ、椅子をくれないかしら」
隣で凛が言った。そういえばそうだ。椅子を持ってきてくれたはいいものの、それからは狐面の男と言い争いをしている。その手には当然椅子が2つ。凛のその言葉で、男はやっとこちらを見て、
「あぁ、悪い」
と言って渡してきた。とりあえず座ってみるが、いまだに言い争いが続いている。
「あなたは部屋の主なの?」
言い争ってるところに、凛が聞く。狐面の男とフードを被った男は、言い争いをやめて伊月と凛の方を見た。
「それってどっちのこと?」
「お面被ってる方が主なのは聞いたわ」
「じゃあ俺のことか?」
「えぇ」
伊月は黙って聞くことにした。
「俺は主じゃない。こんな奴が主ってのは嫌だけどな」
「えー、別にいいだろ!決まったことなんだからさ!」
また言い争いが始まりそうになる。
「うるさいんだけど」
凛がうんざりする、という顔をした。そんな顔を見て、2人の男はピタリと言い争いをやめた。分かりやすい。
「それで?なら、あなたは誰?」
「そうだな。ま、コイツのアシスタントとでも思っててくれ」
言いながらもこんなのが主とか嫌だ、と顔に出まくっている。
「アシスタント?」
「そう。言わば手伝い」
「それは分かるわ。何の手伝い?」
チラリと狐面の男の方を見やり、また視線を凛に戻して、フードの男は言った。
「それは、ここに全員が来てからじゃないと言えない」
「そう」
凛は意外にもあっさりと引き下がった。
「俺からも質問」
「何?」
今度は狐面の男が返事をする。
「この部屋のルールの紙ってどこにあるんだ?」
「あぁ、それはこの次の部屋だよ」
まだ部屋があるのか?てっきり、それぞれ一部屋だけだと思ってたんだけどな。
「ねぇ、ルールの紙って?」
凛が聞いてくる。あ、そうか。のっぺらぼうの奴からもらった紙を見てないから知らないんだと、その紙を出しながら伊月は思った。
「共通のルールってあったろ?」
「えぇ」
「その中の一つに、ルールが書かれた紙を必ず貼っておくことっていうのがあったんだよ。実際に見た方が早いと思う」
紙を受け取った凛は、まじまじと眺めている。
「ふぅん。なるほど」
すぐに返された。
「次の部屋に進むには、全員揃わないとダメなのか?」
「そうだねー。暇だよねー。あー、つまんない。何でさっさと来ないのかな?」
そりゃあんな真っ暗な中をすたすた歩けるはずないだろ、と伊月は思う。
「ところで」
今度はフードの男。
「お前ら、あの暗闇の中をよく歩いてこられたな。怖くなかったのか?」
「怖かった」
「そりゃそうか」
「私は別に平気だったわ」
マジか…。ちょっと信じらんない。何で平気なんだ?というのが顔に出ていたからか、ムスッとしながら言われる。
「暗闇なんて目を閉じてれば一緒じゃない」
「いや、一緒じゃないだろ」
フードの男が、伊月の気持ちを代弁するように言う。
「そう?」
「そう」
と、状況を考えたらまぁずいぶんと平和な会話をしていた。
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