第3話
ドアの向こうは、白い部屋だった。さっきまでが薄暗かったからか、すごく明るく感じる。先にこの部屋に入っていた人たちは、すでにいくつかのグループに分かれていた。さて、どうしたものか。1人でも別に構わないのだが、これから始まるもの全てが1人でもクリアできるとは限らない。とりあえず、どこかのグループに入れてもらうか、ときょろきょろしているところに、声をかけられた。
「なぁ、俺たちのとこに来るか?」
振り返ると、のっぺらぼうの奴と話をする前に声をかけてきた人だった。
「いいんですか?」
「あぁ、別に構わないよ。いいよな?」
同じグループの人たちに確認を取っていた。グループの人たちも頷いている。とりあえず1人ではなくなったことに伊月はほっとした。
「見れば分かるだろうけど、今、10個のグループに分かれているんだ。何でそうなったかは知らんけど、何となく」
今の状況の説明をしてくれるらしい。
「それで今、俺たちは自己紹介してたところだ。君がいなかったから、改めてもう一度しとくか」
それは別に知らなくても、とは思うけど、名前くらいは知っといたほうがいいかと思い直し、お願いします、と伊月は言った。
「まず俺な。俺は
25?思っていたより若く見える。
「はい、じゃあ次いきまーす。私は
「えっ、さっき言ってたじゃん、20って」
浩がツッコむ。
「ちょっとー、先に言わないでよね。ええと、年が秘密ってのは冗談で、今年で20になりましたー。大学生でーす」
他のグループと違ってここはずいぶん明るいらしい。このグループのムードメーカーというか中心人物は浩と梓のようだ。かなり打ち解けてるみたいだし。
「はい、じゃあ結奈ちゃんどうぞー」
「あ、はい。
この人は俺と同じ年なんだ。
「俺は
「仕事はー?何してんのー?」
梓が聞いた。
「いや別に言うほどのものでもないが」
「聞きたい聞きたい」
「工事現場で働いてたよ。もう10年くらいずっと」
へぇー、と聞いたわりには興味なさそうな返事をする梓。
「凛ちゃん、どうぞー」
メガネをかけた黒髪ロングの人。チラリとこちらを見やって、はぁ、とため息をついていた。
「もう言ったはずですが」
「この子いなかったからさ、もう1回お願い!ね?」
めんどくさいと顔に書いてある。人と関わりたくないのだろうか仏頂面だ。
「お願いします」
一応言っといた方がいいか、と伊月は言った。もう一度ため息をついて、だけど言ってくれた。
「
短い。簡潔。としか言いようがないけど、必要最低限のことは言ってくれたので別にいいか。
「オッケーオッケー。はい、最後に君どうぞ!」
ほんとこの人テンション高い。
「えーっと、高村伊月です。年は15、高校生です」
とりあえず、全員の自己紹介が終わった。
「伊月くんねー。よろしく!」
手を差し出される。えーっと…?あ、握手か、と気付き、伊月は慌てて手を差し出した。
「それで、何か聞きたいことはあるか?」
浩が聞いてきた。
「全ての部屋に共通するルールっていうのを知りたいです」
「それなら透さんが渡されてたよな」
「あぁ。はい、これ」
「ありがとうございます」
渡されてたのは透だったようだ。紙を渡されて、目を通す。
〈ルール〉
1、暴力行為は禁止とする。
2、ルールが書かれた紙を必ず貼っておくこと。
3、ルールは明確にすること。
4、ルール内容について、命の危険があるものも可能とする。
5、ルールの付け足しもありとする。
6、ルールを破った場合、ペナルティがあるものとする。
※なお、ペナルティは死。その他のペナルティは認めない。
7、部屋の主にもこのルールは適用されることとする。
内容はこうだった。もっとあるかと思っていたが、そんなこともなく。読んだ感じ、共通するルールは簡単に守れるだろうな、と伊月は思った。問題は、ルールの付け足しが可能ってことだ。ルールを消すのは無しなんだろうか。紙に書いてないことなので、ちょっと分からないけど。とりあえず、
「この紙、俺が持っててもいいですか?」
と聞いてみた。
「あぁ、別に構わない。今のところ誰も見に来ないし、俺も一応目を通したから」
とすると、このルールを把握してるのは今のところ俺と透さんだけか、と伊月は紙をたたみながら周りを見た。どうやら、それぞれのグループで自己紹介してるらしい。
「ねぇねぇ」
梓が突然会話に入ってきた。
「何ですか?」
「それ、それだよ」
何を言われてるのかさっぱり分からくて困惑する。
「敬語やめない?堅っ苦しいじゃん。年の差なんて気にしなくていいからさ」
「お前が良くても俺ら嫌かも、とか考えないのか?」
浩がど正論でツッコむ。
「じゃ、嫌なわけ?」
「え、いや別に嫌なわけではないけど」
「じゃあいいじゃん」
浩、梓の勢いに負けてあっけなく撃沈。
「ということで、今から敬語なしね」
「はぁ」
ずいぶんのほほんとした会話してるなぁ。これで大丈夫なんだろうかって心配になってくる。
「そういえば、のっぺらぼうの奴が次の部屋からはその部屋の主がいるって言ってました…じゃなくて言ってたけど」
「あぁ、それがいないんだよな。この部屋に隠れられる場所なんてないんだけど」
隠れてる方がびっくりだ。こんな何もない部屋に。そんな会話をしているときに丁度、壁が音もなく開いたので、ぎょっとして固まってしまった。その壁の中から誰かが出てきた。
「へぇ、まぁたグループに分かれてるんだ」
のっぺらぼうの奴よりも少し高めの声でそいつは言った。コツ、コツ、と靴の音がする。その声が聞こえた瞬間に空気がピリッとして、いつのまにか全員立ち上がっていた。
「あはは、そんなに警戒しなくてもいいのに。もしかして、もう誰か殺されてたりとか?あ、ドア選んだ奴らは論外ね」
もちろん今度も誰も答えず。
「え?うっそ図星?なにそれ、笑えてくるわ」
笑う要素0なのに。さっきから聞こえてくる声の主が、ようやく姿を現した。今度もお面をつけている。服装は相変わらず執事服で。ひとつ違うことがあるとしたら、狐のお面ということくらいか。男は部屋の中に完全に入ったところで立ち止まり、声高らかに宣言した。
「はい、俺の部屋へようこそ!俺がこの部屋の主でーす」
のっぺらぼうの奴はお面さえなければまさに執事という感じの喋り方と物腰だったからあんなに違和感が少なかったのか、と伊月は1人納得する。それほど、この狐面の男は違和感しかなかった。パン、と手を叩いてそいつは続ける。
「まぁとりあえず、この部屋で誰かが死ぬことはないから安心して」
意を決したのか、浩が聞く。
「それってどういう意味だ?」
「そのまんまの意味だよ。死ぬことはない。この部屋は、次の部屋から本格的に始まるゲームの準備をする場所ってこと」
ゲーム、ねぇ。
「準備って言ったって、この部屋には何もないじゃんか」
ぼそっと呟いた伊月の一言を拾い、狐面の男は答える。
「そりゃーね。ここは入り口みたいなもんだし」
地獄耳かよ。今度は声に出さない。
「ということで、ずっと入り口にいたってしょうがないので俺についてきてくださーい」
と言ってくるりと振り返り、ついさっき現れた道へと入っていく。ついて行くも行かないも自由なのか、それだけ言って1人でどんどん進んでいった。ほんの数分前に人が殺されたからか、当然、誰もついていかない。伊月自身、死にたくはない。けど、これで開いた壁が閉じて、ここから出られなくなってしまったらそれはそれで後悔するだろう。怖い。そう、ただ普通に怖い。でも、死にたくない。生きていたいからなぁ。
「はぁー…」
腰に手を当て、盛大にため息をついて一歩踏み出す。一歩踏み出すこと、それさえできればあとは覚悟を決めて進むだけだ。
「お、おい、伊月」
浩が伊月に言う。
「何?」
「行くのかよ?」
「行く」
「怖くないのか?」
伊月は振り返って言った。
「そりゃあ怖いけど、どうせもう戻れないなら行くしかないじゃん」
そしてまたくるりと開いた壁を見て、もう一度歩き出した。もう振り返らない。振り返ったらまた進めなくなりそうだから。覚悟は決めたんだ。
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