第13話 相愛と悪

「……どうして二人が一緒にいるのかしら」


 友利さんは涌井を睨みつけながらゆっくりと歩み寄る。そして小柄な涌井を女子にしては背が高い友利さんが見下ろす。


「まだ松坂君にちょっかいかけてんの? 前にあれだけ言ったのに」


「っ!……」


 涌井は何か言いたそうな表情をするが、俯き押し黙る。


「友利さんごめん! 俺がトイレに行ったついでに勝手に手伝ったんだ」


 俺はこのままじゃ涌井が責められてしまうと思い、二人の会話に割って入る。


「……そうだとしても、もっと拒絶していればよかったはずよ。そうしなかったのは松坂君の優しさにつけこんでるから。黙っていれば向こうから気遣ってくれる、構ってくれる。自分は何も言ってないから悪くない……アンタ見てると本当に勝手で腹が立つ!」


「ちょっと! と、友利さん!!」


 俺が涌井を庇ったことに腹が立ってしまったのか、友利さんは手に持った水のペットボトルをグシャりと握りつぶし、余計にヒートアップしてしまう。


「……」


 しかし依然無言を通す涌井。

 その対応を見て友利さんはさらに責めたてる。


「なによ? 言い返す言葉もないの? またそうやって自分は弱いですアピールして助けてもらおうとしてるんじゃないの?」


「……うるさい」


 一瞬俺は聞き間違いかと思った。

 ずっと黙っていた涌井の口から発された言葉は小さな声とは裏腹に重く鋭い一言だった。


「……は? なんて?」


「……だから、うるさいって言ってるのっ!」


 涌井の叫び声が俺たち三人以外誰もいない静寂の体育館に響く。

 さっきまで俯いていた涌井だったが、今は友利さんを睨み返していた。

 それは普段の弱々しくて丁寧な口調の涌井からは想像できない姿だった。


「……何? 逆ギレ?」


 だが友利さんも一歩も引くこともなく涌井を睨み返す。まさに一触即発といった状態だった。


「ま、まぁ、二人ともやめようよ、そういうのは!」


 俺は二人の間に入り、友利さんを宥める。


「……フン。まぁいいわ。松坂君も早く戻ってお昼にしましょう」


「そ、そうだね」


 そう言って友利さんと俺はこの場を立ち去った。涌井のことは心配だったが、今は友利さんの機嫌をとる方が大事だと判断する。

 ただやはり友利さんは怒りがおさまらないようで、持っていたペットボトルを投げて地面に叩きつけた。


「もうーー! なんなのよアイツ!! イライラするわ本当に!」


「今日のはごめん。俺が勝手に手伝っちゃったから……」


「それもそうなんだけど、向こうもハッキリと断るべきよ。松坂君の優しさにつけこんでるのよ」


 結局友利さんの怒りはなかなかおさまらず、愚痴を聞きながらお昼を過ごしたのだった。






 ♢♢♢



 私は誰もいなくなった体育館で考え事をしていた。

 内容はもちろん彼、松坂くんの事。


 今日、彼は私を助けてくれた。やっぱり私の予想は間違っていなかった。

 今は友利さんのせいで松坂くんとお昼を食べたり、放課後に一緒に過ごすことはできない。

 さらに友利さんに松坂くんとはいっさい話をするなと言われている。


 確かに友利さんにはお兄さんの件もあって強くは言えないし、酷い仕打ちも受け入れてきた。


 ……でも松坂くんの事だけは譲れない。


 何より彼は友利さんより私のことの方が好きなはず。そう思える場面が多くあった。

 でもまだ絶対にそうだとは言い切れなかった。彼はただ優しくていい人なだけなんじゃないかと……。


 だから私はあえて友利さんからの松坂くんと話さないという要件を受け入れた。

 必ず彼の方からもう一度声をかけてくれると信じて……。


 そして今日、自信が確信に変わった。


 友利さんがを邪魔をするというなら、私が戦うしかない。私が松坂くんを助けるしかない。


「松坂くん……待っててね」

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